◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆
｜「新版『資本論』の研究」のトップ ｜第二部の目次 ｜前のページ ｜次のページ ｜メール｜＃０４３：第三篇２０章 単純再生産（その５）
第23回「新版『資本論』オンラインゼミ」はここからです。第11節 固定資本の補填 ⑦p720～p757
⑦p721～p724 「年々の再生産の…」
スミス批判は前節で一段落して、この20章ではこれまで度外視してきた建物や機械など「その寿命が1年よりも長くもつような」（p721）固定的不変資本＝固定資本の摩滅と補填を初めて扱います。
「もしそれらの構成部分がその1年以内に完全に死滅するのであれば」（p721）からは、旋盤のバイトや力職機の飛び杼など機械の一部で（生産物に直接作用し）消耗が激しい部分のこと（間接消耗品）を言っています。マルクスも「寿命が1年以内の固定資本」として流動資本と区別しています。
⑦p722～p724 「諸商品のうち…」
現在は間接消耗品と言われるものと違う本来の（寿命が１年を超える）固定資本の摩滅分は決して修理費と混同されてはならないと述べています。（p722）
ご丁寧にも、マルクスは生産的在庫の、ある程度の大量購入のための積み立てとそのために生じる生産在庫は、固定資本の摩滅分の積立と現物更新は別だと断っています。次に固定資本についてのおさらいで、固定資本の摩滅分はそれを含む商品の販売によって貨幣化するが、他の流動資本（部分的諸器官＝「関節消耗品」、労働力、原料、補助材料など）と違って、すぐ現物で補填されず、固定資本の次の現物での更新時期まで積み立てられ、固定資本の寿命が尽きると一気に流通に投げ込まれて固定資本の現物を更新・補填すると述べています。
⑦p724 「単純な商品流通が…」～
ここは固定資本の再生産は他の部分と違って貨幣が特別の働きをすると前段をくり返しているだけです。（生産が共同的で…）の部分は未来社会のことです。
⑦p724～p727 「さて、基本表式に立ちもどるならば…」
ここでは、マルクス特有の弁証法的的言い回し（普遍、特殊、個別）で、社会的に見れば（平均的に見れば）Ⅱの生産物価値はどの部分も（２０００ｃ相当部分であっても、５００ｖあるいは５００ｍ相当部分でも）ｃとｖ、ｍの比率は均一（2/3=4/6：1/6：1/6）であると述べています。これは第一部第三篇第５章「労働過程と価値増殖過程」第３節のシーニアの「最後の１時間」の図を見ると分かります。
最後にⅠ(1000v+1000m)とⅡ2000c（マルクスは2000Ⅱcと表記する）の交換に触れています。
１ 貨幣形態での摩滅価値部分の補填 ⑦p727～p735
さて、本論です。いったい固定（的不変）資本の摩滅分の積立金の貨幣はどこから来るのかという、固定資本の補填についての１つ目の考察が試みられます。
⑦p727～p728 「そこで、まず
これまで固定資本の摩滅分を度外視して、Ⅱｃ２０００はⅠ(ｖ＋ｍ)２０００相当の現物で補填されるとしてきましたが、固定資本の摩滅分を考慮に入れると、これは直ちに現物で補填されるのではなく貨幣に転化され、固定資本がその現物形態で更新される期限が来るまで、順次積み立てられると、前述の当たり前のことを述べます。次が大事です。
⑦p729～p731 「Ⅰ(1000v+1000m）と2000Ⅱcとのあいだの転換において…」
Ⅰの生産物の価値額Ⅰ(ｖ＋ｍ)２０００部分にはⅠの不変価値要素は含まないので、Ⅰの固定資本摩滅分の要素も含まない（Ⅰｃ４０００の価値要素を含むⅠの生産物はⅠの内部の資本家同士の取引で現物補填される）、これに反してⅠ(ｖ＋ｍ)２０００（生産諸手段形態）と交換される（Ⅱの生産物の）価値額Ⅱｃ２０００（消費諸手段形態）にはこの要素（Ⅱの固定資本の摩滅分）が実在し、「この価値要素の一部分こそは、ただちに貨幣形態から現物形態に転化される必要はなく、さしあたり貨幣形態にとどまらなければならない」のです。（p729）マルクスはここに困難があると、次のように述べています。
その現物形態で２０００(ｖ＋ｍ)が存在するⅠの生産諸手段は、２０００というその全価値額まで、Ⅱの消費諸手段で存在する等価物と転換されなければならないにもかかわらず、他方では、消費諸手段２０００Ⅱｃは、その価値額いっぱいまでは生産諸手段Ⅰ(１０００ｖ＋１０００ｍ）に転換されることはできないという困難である。なぜなら、その価値の一可除部分すなわち固定資本のうちの補填されなければならない摩滅分または価値喪失分に等しい部分 は、さしあたり貨幣で沈殿しなければならないが、その貨幣は、ここではもっぱら考察されるこの年の再生産期間内にふたたび流通手段としては機能しないでからである」（p729）
何を言っているかというと、Ⅰ(ｖ＋ｍ)２０００は全部Ⅱｃ２０００と全部交換されるのに、Ⅱｃ２０００はⅠ(ｖ＋ｍ)２０００と全部交換されるわけにはいかない、すなわちⅠはⅡから全部買うのに、Ⅱは固定資本の摩滅価値分だけはⅠから買わずに手もとで積み立てなければならない、Ａ＝ＢなのにＡ＝Ｂではない！
しかし、この貨幣はⅠからのみ、やってくることができると続け、その解決策を見つけようとしてみせます。
まず、Ｉが２０００以上の余分な貨幣をⅡに与えることはない、Ⅱの固定資本の摩滅部分、例えば２００の貨幣がⅡの手もとに残りうるのがⅡがⅠへ２０００全部売り、Ⅰから１８００しか買わない場合だけだと、くりかえします。これを、逆に言うとⅠはⅡから生活諸手段を２０００分全部買うのに、Ⅱに生産諸手段を１８００しか売らなかった、これでⅡの手もとには２００の貨幣が残るという事です。
結果的にⅠに２００の生産諸手段、Ⅱに２００の貨幣が残る。単純再生産を前提するなら、Ⅰの２００分の生産諸手段はⅡの何かと交換されなければならない…。マルクスは単純再生産の前提が「消失してしまう」（p731）と謎かけをしますが、ykbdataにはだんだん見えてきました。
この200は、個別資本を見れば、「その年の再生産期間中には」(p730）交換されず、少しずつ積み立てられ、固定資本の寿命が尽きたとに一気に交換されるのです。多数の個別資本で少しずつ積み立てられ、少数の個別資本で一気に交換されるので、これを社会全体で（総資本として）見れば等価交換が成り立っているのです。【2024/6/9追加】
⑪p731～p732 「この問題は独自の困難を…」～「まず、いましがた想定した…」
次にマルクスは、この問題を取り扱うのは自分が初めてだと自慢し、これまで度外視してきた固定資本の摩滅分200を含むあたらな表式を示します。
"d"は"
"、フランス語で摩滅分を表すと言いますが、辞書では「ゴミ」でした。（チリも積もれば山となるという事で理解しましょう。発音は「デシェ」というよりは「ディシィ」に近いようです）マルクスはこの表式で、以前にもやったと思いますが、またしつこく貨幣と商品の動きをシミュレーションします。簡単なので途中経過の図なしで追いかけましょう。（もう分かったという人は「"2現物での"固定資本の補填」に飛んでも構いません）
⑦p732 「Ⅰは、労働力の支払いとして…」
まずⅠの資本家がⅠの労働者に支払った（前貸しした）労賃１０００でⅠの労働者がⅡの生活諸手段１０００Ⅱｃ分を買う。（Ⅱ３０００のうち１０００Ⅱ（ｖ＋ｍ）分の消費諸手段はすでにⅡの労働者と資本家に買われているので、この操作の後の残りは１０００のみ）
こうしてⅡの資本家の手もとに入った１０００の貨幣でⅡはⅠの生産諸手段１０００Ⅰｖ分を買い（Ⅰの生産物である生産諸手段６０００のうち４０００はⅠの内部で交換されるので、この操作の後にⅠに残るは１０００Ⅰｍ分の生産諸手段のみ）、１０００の貨幣がⅠの資本家に還流し、これは次の労働力を買う貨幣資本（可変資本の貨幣形態）となる。（Ⅰ1000vとⅡ1000cの交換の完了）
次ににⅡから４００の貨幣（の前貸し）でⅠの生産諸手段の４００Ⅰｍ分を買い、Ⅰは同じ４００でⅡから消費諸手段の４００Ⅱｃ分を買い、これでⅡの（前貸した）４００がⅡのもとに還流する。
今度はⅠから（前貸しした）４００でⅡから消費諸手段４００Ⅱｃ分を買い、Ⅱは手ものに入った４００でⅠから生産諸手段４００Ⅰｍ分を買う。こうしてⅠの（前貸しした）４００はⅠに還流する。（例によって２回の交換に分けているが、２００で４回、８００で１回でもよいことは、剰余価値を実現する貨幣はどこからくるかという、前に述べた問題です）「これまでの計算は、次のようになる
」
⑦p732～p735 「Ⅰは、商品で…」～「さらにいまや･･･」
Ⅰは商品（生産諸手段）で１０００ｖ＋８００ｍを流通に投じ、さらに１０００の貨幣を労賃に、４００の貨幣をⅡとの転換のために流通に投じる。転換の完了後には、Ⅰは貨幣形態での可変資本１０００と、８００の生活諸手段（これは資本家に消費される）と、Ⅰが前貸ししてⅠのもとに還流した貨幣４００を所有する。
「Ⅱは、商品（消費諸手段）で」１８００ｃと貨幣で４００を流通に投じ、転換の完了後には、ⅡはⅠからの生産諸手段１８００と、Ⅱが前貸ししてⅡのもとに還流した貨幣４００を所有する。
「さらにいまや」、Ⅰには２００ｍ分の生産諸手段が、Ⅱには２００ｃ(ｄ)分の消費諸手段が残っている。すなわち下図です。
⑦p733～p735 「前提によれば」～「したがって…」
Ⅰの資本家は２００の貨幣でⅡの残りの２００ｃ(ｄ)分の消費諸手段を買う。しかし、Ⅱの資本家がⅠの残りの２００ｍ分の生産諸手段を買ってしまうと自分の固定資本の摩滅分の積立金２００が消えてしまい、買わないとⅠの商品が売れ残ることになる！それでは（…
「これは、単純な規模での再生産という前提に矛盾する」と、前と同じ結論をくりかえし、それでだけでなく、２００ｃ(ｄ)の貨幣化を説明できる仮説では決してないと断言します。その矛盾を解決するためにはⅠがⅡに２００の貨幣を無償で与えることが必要で、それは「年々２００ポンドが天から降ってくる」という事と同じだと皮肉ります。
「けれども…」地主や利子生み資本、不生産的労働者を持ち出しても、「ⅠとⅡのあいだに」商人を介在させても事態は変わらないと付け加え、「ここで見られるように」「貨幣はその出発点に復帰」するという法則は、200Ⅱc(d)はⅠの前貸しで貨幣化されることを「決定的に排除する」と言います。
これは、もうすでに解けている謎かけです。残る問題はそれで現実に単純再生産の社会的均衡が保たれるのかということです。それが次節です。
２ "現物での"固定資本の補填 ⑦p736～p753
前節で固定資本の摩滅分を積み立てる貨幣はどこから来るのかを考察しましたが、ここからは、全部摩滅してしまった固定資本の現物での補填という、２つ目のシミュレーションです。
⑦p736～p738 「いま考察したばかりの仮説をしりぞけたのちに…」～｢（ｂ）あるときⅠが…」
もう残っている理屈は、摩滅分の貨幣での補填と、「死滅してしまった」固定資本の「現物での」補填だけだ、と結論を先に言いつつ、p737の（ｂ）までは前項の「１ 貨幣形態での摩滅価値部分の補填」の補足で、最もばかばかしい仮説、Ⅱの積立金をⅡ自身が流通に投入するという仮説を紹介しています。
すなわち紡績業資本家Ｘが２００の貨幣で綿花栽培資本家Ｙから２００の綿花を買い、今度はその２００の貨幣で資本家Ｙが資本家Ｘの２００の糸を買い、資本家Ｘに還流した２００を毎年積み立てるという仮説です。
⑦p738 「しかし、このばかばかしさは…」
「…外観上そう見えるにすぎない。」の後が「２ "現物での"固定資本の補填」の本論で、いきなり本質的な論が展開されます。「大部門Ⅱを構成する資本家のたち固定資本は、その再生産の期限（現物での更新の期限であり、更新の間隔ではない*ykb）がまったく異なっている。ある資本家はたちにとっては、固定資本は全部"現物"で補填されるべき期限に達している。他の資本家たちにとっては、固定資本は多かれ少なかれまだこの段階には達していない…その価値が順次に貨幣で積み立てられるということである」とykbdataが予見したとおりです。ただしこれは、後で述べますが、均衡のとれた恐慌も起きない単純再生産という前提です。
マルクスは前者の（固定資本を更新する時期に来ている）資本家たちを「部分１」、後者の（摩滅分を積み立てている）資本家たちを「部分２」と命名します。
ところがマルクスは部分１と部分２の比率を半々とするという、資本家の数の比率なのか資本額の比率なのかあいまいな考察の前提を立てしまいます。これが現実離れしていて、その後の余計な「蒙昧遊戯」（「資本論」を全く理解できなかったオイゲン・デューリングは「資本論」について「錯綜と観念の唐草模様」（大月書店ＭＥ全集第２０巻ｐ１２７）とか「観念と歴史の変態遊戯」（同ｐ２１４）と悪罵を投げつけましたが、言葉が汚すぎるのでykbdataは「蒙昧遊戯」とこれまでも言い換えてきました）の出発点になります。
マルクスがエンゲルスから聞いた固定資本の寿命は約１０年で、部分１（の現物での固定資本補填価値額）と部分２（の固定資本摩滅分の積立額）の比率は資本の価値額では確かに１対１となり得ますが、資本家の数は１対９となります。マルクスの２つ目のシミュレーションは論理的にはあり得ても、現実離れすることになります。しかしykbdataは追跡します。マルクスの頭の中を覗きたいから。
⑦p738～p740 「そこで…」～「ここまでの諸点間のあとで…」
さて、１つ目のシミュレーション同じく、Ⅰ1000vとⅡ1000cの転換が完了した時点から、２つ目のシミュレーション開始です。
１つ目のシミュレーション同じく、まずⅡの資本家階級が流通に投入する４００の貨幣のうち、半分が部分１の資本家たちがやってくる、残り半分は部分２からやってくる。
この４００でⅠの資本家はⅡの消費諸手段を買えば、この４００は直ちにⅡに還流する。「しかし、４００を前貸しした資本家とは違う資本家に還流する。」という論は苦しい論の展開ですが、「何の矛盾も存在しない」と強がります。
１つ目のシミュレーションではマルクスは、次にⅠの資本家が４００を支出するとしていますが、ここでは続けてⅡの資本家に４００を前貸しさせます。
Ⅱに還流した４００で、部分１は還流した４００の半分の２００でⅠから生産諸手段を買い、部分１の流動的不変資本（原料、補助材料）を現物で補填し、さらに部分１は（これまで貨幣で積み立ててきた）２００を一挙に「前貸し」し）Ⅰから固定資本の現物（機械、工場の建物など）を買って更新する。（２００＋２００＝４００がⅡの部分１からⅠへ）
Ⅱに還流した４００のうちの部分２に還流した残り半分の２００は、Ⅱの部分２がⅠから何も買わずに積み立てる。（あれれ？部分２は流動的不変資本２００をⅠから買わないの？）しかも、ⅠからⅡの部分２に還流する貨幣２００はⅡの部分１がⅠから固定資本を現物で買った貨幣がⅠに還流した後、ⅠがⅡの部分２の生活諸手段２００を買うことで還流し、それを部分２が積み立てるという、かなり無理な論建てに進みます。辛うじてではあるが成立するシミュレーションです。次からは「蒙昧遊戯」の領域に入りますが、その前にykbdataのシミュレーションを示しましょう！
ykbdataのシミュレーション
建物は機械と違って数十年の寿命があり、今回のykbdataのシミュレーションでは建物の更新は度外視します。
まずⅠの労働者が１０００の貨幣を「支出」し（消費諸手段への支出なので「前貸し」ではない）Ⅰの資本家も１０００を支出し（同前）、Ⅱの消費諸手段２０００を買い、Ⅱの部分１（固定資本の更新期を迎えている資本家）と部分２（固定資本の摩滅分を積み立てている資本家）の（資本家の数の）比率が１対９として、部分１に２００、部分２には１８００の貨幣が手もとに入る。
部門Ⅱの部分１の資本家は部門Ⅰから来た２００のうち１８０でⅠから生産諸手段（原料や補助材料）を買い、部分１の流動的可変資本を現物で補填する。さらに部分１は、１０年間積み立てていた固定資本の摩滅部分の貨幣を一挙に「前貸し」してⅠから生産諸手段２００を買い、自らの固定（的不変）資本（機械）を現物で補填する。これでⅠには３８０が還流する。部分１は残った２０を１０年後をめざしてその年度の固定資本の摩滅分として積み立てを開始する。
Ⅱの部分２はⅠから入ってきた１８００の貨幣のうち１６２０でⅠの生産諸手段（原料や補助材料）を買い、これがⅠに還流し、部分１の３８０（１８０＋２００）と合わせて２０００がⅠに還流したことになり、ⅠとⅡの間では帳尻があう。部分２は残った貨幣１８０（２０×９）を固定資本の摩滅分として積み立て続ける。
以上を計算すると、Ⅰは２０００の貨幣でⅡの２０００ｃ分の消費諸手段を買い、その貨幣でⅡはⅠから２０００の生産諸手段＝流動的不変資本（原料や補助材料）１８００＋固定的不変資本（機械）２００を買い、Ⅱの部分１と２をあわせて２００（２０＋１８０）を固定資本の摩滅部分として積み立てる。
オンラインゼミの講義（2024年6月15日）で、あとで必ずykbdataのシミュレーションを表式にして示します、という約束を果たしたのが下図です。（Ⅰ(v+m)2000が支出された時点がスタート時点です）【2024/6/18追加】
どうです？ スッキリしたでしょ！見事に！現実的に！帳尻が合いました。不変資本の摩滅分の比率を大きくすれば現代資本主義にも当てはまります。まさに「『資本論』の研究」でしょ！民間大企業の生産現場にいたことのあるykbdataならではです。（たった4年前の私ですが、何という理解力かと我ながら驚いています。いまのykbdataだったらとてもここまで及びません。【2024/6/12追加】）もう結論が出ましたので、次からはマルクスの「蒙昧遊戯」に心配なく付き合います。
⑦p740～p741 「不変資本価値…」
面白いのはここからで、マルクスは例のシーニアの「最後の１時間」と同じように、最後の２００ｃ(ｄ）をだれが支払うのかと、「最後の２００Ⅱｃ」というシミュレーションをしているという表明です。これを図にすると下図のようになります。
マルクスは、そのシーニアの「最後の１時間」批判では、どんな商品もその価値構成部分を均一に持っている（p740「比例的諸部分」）と説明しています。これを改めて図にすると下図のようになります。
固定資本の摩滅部分の実現②（価値論）
⑦p741 「さて、この残りの操作の際…」
マルクスが、わざとシーニア的な解明をしていると、ykbdataが思ったのは、p740～p741で「第一の部分」（部分１）が「…すでにその摩滅価値の一部分をこのように〔沈殿分として〕実現しているかも知れないが、彼らにとっては２００の貨幣はまだこれから実現されるべきものにとどまっている」と述べている点です（図①）。つまり、「実現」（貨幣化）と「沈殿分としての貨幣化」は同一ではなく、下の方の図②で言えばどんな商品にも潜む２００ｃ(d)の可除部分が一時的に貨幣化されてもすぐに不変資本や可変資本に転換されることとは別に、明示的に（資本家の意識として、シーニアの最後の１時間のように、「最後の２００ｃ(d)」」が）貨幣化して「沈殿」する（積み立てられる）のは、上の図①の最後の２００ｃ(d)の操作である、と言っているのだと思います。
⑦p741～ 「したがって…」～「ここで…」
さてここまでで、Ⅰの最後に残った２００ｃ(d)分の生産手段を買ってⅡの固定資本を現物で更新するのは、Ⅱの部分１であることは明らかになりました。しかしマルクスは最後の操作、４００の転換、すなわちⅠが手にした剰余価値分の４００の貨幣がどのようにⅡに還流するかというシミュレーションを、（ａ）Ⅱの部分１と部２が２分の１ずつ売る（ⅠがⅡの部分１と２から半分づつ買う）、（ｂ）部分２が４００すべてを売る、（ｃ）最初呼んだときは理解できませんでしたが、部分１が４００すべてを売る、という前提で開始します。
（ａ）の場合（部分１と部２が２分の１ずつ売る場合） ⑦p742～p743
最後の転換の始まる時点でⅠに還流した４００の出所について述べています。（ｂ）の場合も、（ｃ）の場合もこのことから始まっています。
Ⅱの部分１がみずからの固定資本の現物更新のために前貸しした２００（ykbdataの前提では１０年間の積み立て金）と、同じくⅡの部分１が前貸ししてⅠから流動的不変資本１００を買った１００の貨幣、合わせて３００の貨幣。
Ⅱの部分２が前貸してⅠから流動的不変資本１００を買った１００の貨幣。（あっ！やっぱり部分２も流動的不変資本を買うんだ！前は買わないというシミュレーションだったのに！）
「このように、この４００の貨幣のうち、部分１は３００を、部分２は１００を前貸しした。しかし、この４００は次のように還流する」（p742）
Ⅱの部分１に１００の貨幣が還流し（残り２００は固定資本を買うのみで還流しない）、部分２には３００の還流する。部分１が前貸しした１００の還流は部分１の次の年生産の流動的不変資本の貨幣形態（「前貸しした貨幣（資本）は必ず手もとに還流するという流通の一般原則）になる。部分２は還流した３００のうち１００は部分２の次の年生産のための流動的不変資本の貨幣形態となり、２００を固定資本の摩滅分として積み立てる。（p742～p743）
なんと、部分１が固定資本の現物での更新のために前貸しした２００が、Ⅰを介して部分２に還流したと言っているわけです。（p743）総資本として見れは確かに成り立ちます。ただし、数が少ない部分１と数が多い部分２の流動的不変資本の比率が２分の１ずつだというのは現実離れしています。（ykbdataのシミュレーションを見よ）（ａ）の場合を表式で表すと下のようになります。
（ｂ）の場合（部分２が４００すべてを売る場合） ⑦p744
最終結果が最初に出てきますが、Ⅰの手もとには、（ａ）と違って、Ⅱの部分１からは３００ではなく固定資本の現物補填に前貸しした２００だけ、部分２からはⅠの残りの生産諸手段（Ⅱの流動的不変資本）への前貸し分２００の合わせて４００の貨幣が入ります。（これはⅠの剰余価値の一部）
「部分２には、流通から４００ポンドが復帰する。」つまり部分１には還流しない。これも論理上ありえない話ではないが、現実離れしています。それでも一応表式にすると下のようになります。
ここにきて、やっと（ｃ）の場合の意味が分かりました。最後の転換を前に（ａ）はⅡの部分１と部分２に消費諸手段が１００ずつ。合わせて２００があり、これがそれぞれⅠの生産手段と交換されⅡのそれぞれの流動的不変資本の貨幣形態になる場合、（ｂ）は部分１には商品は残っておらず部分２だけに消費諸手段２００があり、Ⅰの貨幣４００が部分２だけに還流してそのうち２００が部分２の次の年生産の流動的不変資本の貨幣形態に、２００が固定資本の摩滅分として積み立てられる。そして…
（ｃ）の場合（部分１が４００すべてを売る場合） ⑦p744～p745
（ｃ）はⅠの手もと流入する４００のうち、Ⅱの部分１から４００の貨幣すべてが前貸しされた場合で、しかし（ａ）と同じように部分１と２にそれぞれ消費諸手段２００があるので、Ⅰの４００がⅡの部分１と２にそれぞれ２００ずつ還流し、部分１に還流した２００は部分２の次の年生産のための流動的不変資本の貨幣形態となり、部分２はこの２００を固定資本の摩滅分として積み立てる。（「沈殿する」）これも表式にすると下のようになります。
Ⅱが「前貸しする」（流通に投入してⅠの商品＝生産諸手段を引き上げる）貨幣の部分１と２の出し方（Ⅰの４００の出所）によって、Ⅱの各部分に還流する額と還流の仕方が違うというわけです。いずれもシミュレーションとしては成り立たないことはありませんが、経済学的にはあまり意味がありません。マルクスの貨幣の動きに対する強いこだわりが表れています。
⑦p745～p746 「この（ｃ）の場合に…」
これは、（ｃ）の場合のこれまで最後の転換の始点をⅡの方からの前貸しとしたが、これをⅠの方からの支出を始点そしてシミュレーションをしています。（マルクスはⅠの「前貸し」としていますがが、正しくは剰余価値の消費諸手段への「支出」です。支出は還流しません）しかし、これはどうでもよいと思います。
マルクスは読者をさんざん引きずり回したあげく、その「蒙昧遊戯」を捨象した流通の本質論を、例の縦線のあとにスッキリと展開します。早く言ってよ！と叫びたい！
⑦p746～p748 「｜…」
すなわち、資本の年々の貨幣前貸しとその還流による商品同士の等価交換を度外視すると、残るのはⅡの部分１の固定資本の摩滅分の積立金の一挙の支出２００（年々の前貸しと区別するためにあえて支出とした。現に部分１には還流しない）による、Ⅰの生産諸手段での部分１の固定資本の現物の補填と、それでⅠに移った貨幣２００による、Ⅱの部分２に残った（Ⅱの固定資本の摩滅分価値を体現する）消費諸手段への支出、そしてさらに部分２に移った貨幣２００の積立です。これを図表にすると（p748）
⑦p748 「ここでは…」
何とスッキリ！部分1の固定資本を現物で補填するために支出した（現象的には支出でも、本質的にはykbdataの例では１０年越しの「前貸し」となる）貨幣２００がⅠを介して部分２に「還流」する。これがⅡの固定資本の摩滅分価値の積み立てのための貨幣の出どころだ！こんな簡単な結論のために、どれだけ引きずり回されたことか。どれだけの読者が結論にたどり着けずに途中で断念したことか！さもなくばマルクスの言葉でなく、解説書の助けを借りるしかない！ykbdataも疲れました。
なお、部分２には１０分の９の１８０、部分１には１０分の１の２０が「還流」するというのが現実的なykbdataのシミュレーションです。
⑦p748～p749 「この場合…」～「このことをより詳しく…」
しかしマルクスはこれだけでは許してくれません。「このような均衡が、まえと変わらない規模での再生産（単純再生産のこと*ykb）の法則として現れるであろう」と述べた後、なんとこの均衡条件を崩して見せるのです！
「第一の場合」 ⑦7p49～p750
部分１が積み立ててきた貨幣額より多くを固定資本の更新に前貸しした場合です。これは災害や事故で機械や工場が破損した場合に、資本をどこからか調達して追加で前貸しするときに起こりうる話です。結論的にⅡの部分１に貨幣２０が残るか、Ⅰに貨幣２０が残るかになってしまうと言います。
「第二の場合」 ⑦p750～p751
逆に部分１が積み立てた貨幣額より少ない貨幣を自らの固定資本の更新に前貸しした場合です。現在（２０２０年６月）のコロナ禍での消費の委縮で工場の立て替えや機械の更新が中止されていることにもつながる想定です。結論はⅠにも、Ⅱの部分２にもその少ない額だけの商品が売れずに残ることになってしまうと言っています。
次の2つの段落は第一の場合と第二の場合のくり返しです。
ykbdataは「第一の場合」も「第二の場合」マルクスの言っていることにあまり意味はないと思います。マルクスの次の言葉が大事で、以上の困難を自分で解決します。
⑦p751～p752 「Ⅰｍの残額がつねにⅡｃ(1)に等しいと仮定すれば…」
つまり「注文が生産を決定して、Ⅱの不変資本のうち、今年は固定資本構成諸部分がより多く、翌年は流動資本構成諸部分がより多くⅠによって生産されても、再生産に何の変化も生じないのであるから」（不変資本はその構成がどうであろうと生産物価値には影響を与えないから*ykb）第一の場合（Ⅱの部分Ⅰが２００＋２０を固定資本の更新に前貸しした場合*ykb）にⅠｍが消費諸手段に再転化できるのは、Ⅰがそれ〔Ⅰの側に残る２０ポンドの貨幣〕でⅡの剰余価値の一部分を買う場合、したがって、この剰余価値の一部分がⅡによって消費されずに貨幣として積み立てられる場合のみであろう。第二の場合（Ⅱの部分1が１８０しか固定資本更新に前貸ししなかった場合*ykb）には、Ⅰ自身がその貨幣を（足りない２０を*ykb）支出する場合、すなわち排除した仮定のみが、困難を救いうる〔２００Ⅱｃ(2)が全部売れる〕であろう。」
⑦p752～p753 「もしⅡc（１）がⅡc（２）より…」～「前と変わらない…」
ここはほぼ前段のくり返しです。何を言っているかというと、Ⅱｃ(1)と交換されるⅠｍはⅡの部分１による注文で、つまり資本家の思惑的ではあるが計画的生産で！２００になったり２２０になったり、あるいは１８０になりうるが、それで再生産は何ら変化しない。第一の場合、つまりⅡｃ(1)が２２０の場合は、それを受け取ったⅠが、Ⅱの２００以外に交換するとしたら、それはⅡの資本家が剰余価値５００を全部消費諸手段に支出するのではなく、（部分1の節約で）２０だけ残しておく場合、つまりⅡの部分1は２０だけ余計に固定資本を増やす分、自分の消費を２０だけ抑制し、その分貨幣として積み立てられると言っています。しかし、この２０は固定資本のためにもう前貸しされており、その分消費諸手段への支出は自動的に少なくなるのです。ykbdataの意見では積み立てられません。
第二の場合、すなわちⅡの部分1が１８０しか注文してなくて、Ⅰに移ったこの１８０の貨幣で、Ⅱが剰余価値５００よりも（部分1が）２０だけ多く消費諸手段に支出するので、Ⅰｍのための消費諸手段はもう１８０しか残ってない消費諸手段に支出します。これで帳尻が合います。しかし、もしそうならなければ、第一の場合は２０輸入が必要になり、第２の場合は２０の輸出が必要になる、と言っています。（p752）その挙句、最後に拡大再生産を匂わせます。
拡大再生産の契機となりうる不均衡以外は、すべてykbdataのシミュレーションに尽くされています。あまり意味のないマルクスの「蒙昧遊戯」に良く付き合いました！
３ 結 論 ⑦p753～p757
⑦p753～p756 「固定資本の補填…」～「外国貿易は…」
マルクスはⅡの部分1が２０多く固定資本を更新すると、結論的に２０の消費諸手段が売れ残り、生産恐慌が生じるという「結論」を主張します。そんなことはありません。これは間違いです。すでにⅡの固定資本更新の年ごとの振動は、Ⅱの部分１の剰余価値の消費諸手段への節約と浪費（蓄積無しなのだから剰余価値はすべて支出するので、ここでは節約の反対としてあえて「浪費」とした）で吸収する。さらにⅠの生産物（生産諸手段）のうち原料、補助材料などの流動的不変資本の振動は、Ⅰの生産在庫が解決します。どうせつじつま合わせですから、Ⅱの固定資本の年ごとの振動が恐慌を呼ぶとは言えません。もともと、ここでのマルクスの「恐慌論」は本質に迫っていません。
⑦p756～p757 「ひとたび再生産の…」～「固定資本についての…」
「ひとたび再生産の資本主義的形態が廃止されるならば」は言葉通りで未来社会の生産形態ではという事で、ykbdataがこれまで言ってきたこと（生産在庫）が一部のべられています。未来社会での「継続的な相対的過剰生産」はykbdataにとっては要検討事項で、一定のストックは資本主義的生産でもあるし、「継続的」な過剰生産は未来社会でも不要だと思います。
一つだけ気になるのが「固定資本と（労働力を含む*ykb）流動本資本における不均衡は、恐慌を説明するための経済学者たちのお好きな論議の一つである」と、これまでの「結論」を自己否定していることです。（すなわち、これまで述べてきた「恐慌」は、マルクスの本意ではなく、「経済学者」たちの浅薄な論議だとこうなる、ということだったのではないかと思えてきました。【2024/6/13追加】）
まだ少し、未解読のところや誤読があるかもしれませんが、この辺でいったん第11節を終わります。再度、「蒙昧遊戯」に良く付き合いました。
２０２０年６月１７日ykbdata（2024年6月18日改定）
追記 2020/6/18
先にも述べたように、マルクスは資本家エンゲルスから固定資本の更新周期が10年ほどだと聞いています。マルクスは当時の恐慌がほぼ10年おきに勃発していたことについて、固定資本の更新周期が関係しているのではないかと思っていたでしょう。しかし、ここ（「11節 固定資本の補填」）ではその関連性について言及していません。
16年前（2004年）、私は恐慌10年周期説についてまじめに研究したことがあります。多くの研究者の一致点は、当時のイギリスでは恐慌が固定資本の大規模な破棄を引き起こすこと、その後の漸進的な回復が固定資本の増加を伴い、恐慌勃発の直前の時期には熱狂的な固定資本の膨張がみられることです。
今のykbdataの到達は、現在資本主義では政策的介入や金融資本の膨張で、過剰生産恐慌の谷がぼやけていたり、災害（地震やコロナウイルス）が固定資本の破棄につながったりしますが、当時のイギリスでは10年周期の恐慌に固定資本の更新が強く関係していたと思います。しかし、その固定資本の更新に恐慌が大きく作用していた。鶏が先か卵が先か、まさに弁証法的関係ではないでしょうか。
弁証法なしに『資本論』の本質的理解には届きません。【2024/4/25追加】