◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆

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＃０４６：第三篇　第２１章　蓄積と拡大再生産（その１）　�Fp793〜p815

第24回「新版『資本論』オンラインゼミ」はここからです

　今回の末尾で、なつかしい名前前田堅一朗さんも出てきます。（2020年時点での）20年以上前のykbdataのヘーゲル哲学との格闘の痕跡も出てきます。楽しみに、最後までお付き合いください。

�Fp793〜p794　「蓄積が個々の資本家にとって…」
　マルクスはまず、拡大再生産のための追加貨幣資本はどこから来るかに焦点を当てて考察を開始し、単純再生産で取り扱った固定資本の摩滅分の積み立てに注目しますが、それは言いっぱなしですぐ違う話に切り換えます。たぶん、部門�Uで売るだけの資本家グループが積立金を蓄蔵することが拡大再生産の契機なるのではと匂わしているのです。

�Fp794〜p795　「ある個別資本が…」
　年生産物４００ｃ＋１００ｖ＋１００ｍ＝６００のうち１００ｍが拡大再生産のための追加不変資本に転化する（当面、追加可変資本は度外視）として

�Fp794
（一）与えられた技術的条件のもとでは（資本の有機的構成が不変の場合、つまりｃ対ｖの比率が一定の場合*ykb）、機能している不変資本の拡張のためであろうと、新たな産業的事業の創設のためであろうと、この額で充分であること。しかし、この過程が行われるまえに、すなわち現実の蓄積すなわち生産の拡大が始まりうるまえに、かなり長期にわたる剰余価値の貨幣への転化と、この貨幣の蓄蔵とが必要とされることもありうる。

　これは、１年間の貨幣蓄蔵で拡大再生産が可能だよと言いつつ、かなり長期の貨幣蓄蔵が必要なこともあるよ、つまり、年々機械を増やしていくこともできるが、新工場建設には何年もの積み立てが必要だよと言っているようです。しかし、信用を考えると全くどうでもよいことになります。次が少しだけ意味がありますが、当たり前の話をします。

�Fp794
（二）拡大された規模での生産が実際にすでにまえもって開始されていることが前提されている。というのは、この貨幣（貨幣で蓄蔵された剰余価値）を生産資本の諸要素に転化させることができるためには、これらの諸要素が諸商品として市場で買えなけれなばならないからである。この場合、〔生産資本の〕これらの諸要素が既製諸商品として買われるものでなく注文でつくられるとしても、何も違いはない。

　つまり、増産しようと思ったら、機械や原材料がすでに市場にないとできないよ、という訳です。しかし、それがあらかじめの注文によるものであっても何ら事態に変わりがないということです。次が難解です。

�Fp794〜p795
　これらの諸要素が支払われるのは、これらが現に存在してからのことでしかなく、いずれにしても、これらについて拡大された規模での現実の再生産がこれまでの正常な生産の拡張がすでに行われたあとのことでしかない。これらの諸要素は潜勢的に、すなわちその諸要素の形で存在していなければならなかった。というのは、これらの諸要素の生産が現実に行われるためには、ただ注文という衝撃、すなわち、商品の定在に先行するこれらの諸要素の購買とその先取りされた販売という衝撃が必要なだけだからである。この場合には、一方の貨幣が他方の拡大再生産を呼び起こすが、それは、貨幣がなくても拡大再生産の可能性が定在するからである。というのは貨幣それ自体は現実の再生産の要素ではないからである。

　ＡはＢだが、ＢはＡではない、というような言い方です。マルクスは常にこういう言い方をします。
　結局これは大部門�U（消費諸手段生産部門）の注文が大部門�T（生産諸手段生産部門）の拡大再生産を呼び起こす、それがまた大部門�Uの拡大再生産の条件となる、と言っているのだと思います。貨幣があってもなくても、と読者を惑わしていますが、いつもの通り、「信用」があれば貨幣がなくても注文生産は可能だよと言っているのだと思います。もともと注文生産は「信用」がなければできません。
次はさらに難解です。

�Fp795〜p796　「たとえば、資本家Ａが…」〜「貨幣形態で蓄蔵された…」
　 　資本家Ａが剰余価値分の商品を販売して貨幣化した貨幣は、他の資本家の蓄蔵貨幣であったり、労賃の貨幣形態であったり、一日に10回転するような流通手段としての貨幣であったり、その出どころは様々でどうでもよいが、決して新たな富ではない。潜勢的貨幣資本であるが追加の「社会的富」でない、というようなことを言っています。
　これはykbdataにはダブルミーニングに思えます。スミスにあっては固定資本が「社会的富」であるから、スミスに言わせてもこの資本家Ａの蓄蔵貨幣は新たな「社会的富」ではない。マルクスにとってもこの蓄蔵貨幣は、すでに生産された「社会的富」＝剰余価値を貨幣化しただけであり、新たな富＝剰余価値が追加されたわけではないというわけです。しかし、金生産における剰余価値分の金地金の貨幣化は、新たな富だと言っています。（p796中頃）
「別の方法」p796末尾）とは今のところ不明です。

�Fp797〜p798　「貨幣は…」〜「もし人が…」
　次にマルクスは、売るだけで買わないことによって貨幣蓄蔵することは社会的一般的な行為だと述べ、もしも購買と販売が次のように直線的に進むものとすると
　金生産者による購買⇔販売…購買⇔販売（だけで買わない）⇒貨幣蓄蔵
となり、貨幣蓄蔵の規模は金生産に規定されるということになり、金生産者以外は拡大再生産は一歩も前進しないと述べています。
　つまり、金の増産は新たな富だが、その分が全部蓄蔵されたら、金以外の拡大再生産は一歩も進まないということです。

　以上のことは、あまり意味があるとは思えませんので読み飛ばしてもいいでしょう。しかし一つだけ、貨幣蓄蔵は資本家が「売るだけで買わない」つまり販売で剰余価値を貨幣化しても、その貨幣を享楽手段に支出しないで「説欲する」（シーニア）ことだと示唆しているのはおもしろいと思います。

�Fp798　「われわれは…」
　最後に、この外観上の困難（ykbdataは困難と感じませんが、思弁的には困難と言えます）を解決するためには、大部門�T（生産諸手段生産部門）と大部門�U（消費諸手段生産部門）を区別する必要があると述べて、やっと第１節に入ります。
　もっとも不破氏によれば、節分けはエンゲルスが勝手につけたもの（「読む」�D、ｐ１２４）で、マルクスの思考の流れをうまく表現してないと言います。しかしykbdataはそれを意識しながらもエンゲルスの節ごと、項ごとに進み、あとで「不破流節分け」を振り返ります。（結局そうにはならなかった。【2024/7/11追加】）

　第１節　大部門�Tにおける蓄積　�Fp798〜p815

　１　蓄蔵貨幣の形成　p798〜p805
　この項では、追加貨幣資本はどこから出てくるのかを論じていると思います。

�Fp798〜p799　「大部門�Tを構成する…」
　最初の段落の最後の部分、「一方は（みずからの蓄蔵貨幣による生産諸手段の*ykb）買い手として、他方は（生産諸手段の*ykb）売り手として（買わずに貨幣蓄蔵をすすめる）、両者のそれぞれがもっぱらこの一方だけの役割を演じるものとして相対している」と、これまで匂わせてきたことをはっきり前提とします。単純再生産での固定資本の補填でも同じようなことがありましたね。

�Fp799〜p800　「たとえば…」
　ここは第一部の貨幣論で論じたこと（すなわち商品流通に必要な量を超えた貨幣は蓄蔵されること）、直前に論じた、単純再生産でも金の増産で最終的に貨幣蓄蔵が生じることを、「ふたたび見いだす」が、しかし今度は流通過程ではなく「資本主義的生産過程に内在する（拡大再生産の*ykb）一契機として見いだす」と述べています。
　これは剰余価値の資本への転化を直接連想させます。

�Fp800　「信用制度の…」
　余談のようなこの部分の解説は省略しますが、「その満悦のほどが察せられる」は何かのことわざか、シェークスピアの一節か、ご存じの方は教えてください。いつもなら訳注があるのに、なぜかここではありません。

�Fp800〜p801　「しかし、Ａが…」〜「しかし、ここでまず…」
　部門�T内の剰余価値の流通は生産諸手段の生産諸手段（不変資本）という現物形態だと指摘し、「ここでまず次のことをしっかりつかんでおかなければならない」と、p801の訳注*で解説されているように、大部門�Tの資本家を売るだけの部分Ａと買うだけの部分Ｂに分けます。
　すぐ後に仕切り線がでてきますが、ykbdataはここでは「固定資本の補填」で取り扱った大部門間の関係を、大部門�Tの内部で「自己補填」（消費諸手段生産部門の大部門�U内では、不変資本は大部門�Tから買うしかなく「自己補填」は生じない）でも同様だと簡単に片をつけているという印象です。だから、「このあとのほうのこと（流動的不変資本*ykb）については…もっと述べるであろう」と言っているのではないでしょうか。

　少しマルクスの「蒙昧遊戯に」付き合いましょう。

�Fp801〜p803　「ここでついでに…」
　最初に、流通は商品と商品の交換だけではなく、われわれが知っているように（20章でみてきたように）一方的な販売、一方的な購買もある、そのとき貨幣は「沈殿」するんだと再確認します。（p802）

�Fp803〜p804　「しかし、単に一方的な…」
　そのあとは、20章の固定資本の補填の繰り返しですが、20章で展開された、部門�Uの資本家の部分１（固定資本を現物で更新する資本家グループ）と部分２（固定資本の摩滅分を積み立てている資本家グループ）との関係、つまり再掲の次の図表

のような関係が、部門�T内で、部分Ａ（不変資本の追加的諸要素を売るだけのグループ）と部分Ｂ（不変資本の追加的諸要素を買うだけのグループ）との間に生じる。これが単純再生産でも拡大再生産でも、この均衡が前提だと、新しいことを述べます。そしてこの均衡は偶然であり、いつでも異常な進行＝恐慌の可能性に急転する、と述べます。

�Fp804〜p805　「同じく上述したように…」〜「�Tにおける…」
　それ以降は「２　追加不変資本」までは２０章第３節両大部門間の変換�T(v+m)対�Ucの繰り返しにすぎませんので省略します。

　この節、「１　蓄蔵貨幣の形成」はすでに 第二部第２章　生産資本の循環　第２節　蓄積、および拡大された規模での再生産 で先食いされています。

　なお、不破氏は20章の単純再生産では、均衡条件の恐慌論的吟味をしてないと述べたといいますが（「読む」�D、ｐ１２９）、そんなことはないと思います。11節の3項「結論」で論じています。

　２　追加不変資本　�Gp806〜p814
　ここでは大部門�T内の蓄積の考察だということ忘れずに読み解きましょう。

�Fp806〜p807　「剰余価値の担い手…」
　まずマルクスは、部門�T内で売られて貨幣化される剰余生産物は「はじめから生産諸手段のための生産諸主手段」（�Tc）だ、この剰余生産物は部分Ｂ（不変資本の追加的諸要素を買うだけのグループ）の手中で初めて追加不変資本として機能する、と述べます。（p806中頃）
　続けて

�Fp806〜p807
　しかし、この剰余生産物は、それが販売されるまえにすでに、（�Tの）蓄蔵貨幣形成者Ａ、Ａ′、Ａ″の手中ですでに仮想的な追加不変資本である。…　この剰余労働は、�Uｃのためでなく�Tｃのための生産諸手段に、すなわち消費諸手段のための生産諸手段にではなく生産諸手段のための生産諸手段に、支出されている。

　と述べ、さらに

�Fp807
　単純再生産から拡大再生産への移行が行われるためには、大部門�Tにおける生産が、�Uのための不変資本の諸要素をより少なく、しかし�Tのための不変資本の諸要素をその分だけより多く生産できるのでなければならない。

とここまでは解説は要りません。続けて

�Fp807
　この移行は、必ずしも困難なしには行われるわけではないが、�Tの若干の生産物が双方の大部門で生産諸手段として役立ちうるという事実によって容易にされる。

と論を展開します。これは要するに、現代で言えば、家庭の暖房用の重油は産業用にも転用できるし、鉄板から家庭用スプーンを打ちぬくプレス機は機械の分品を作ることに転用できる、家屋建設用の重機は工場建設用にも転用できるよ、その生産手段の配分を大部門�T自身のためにより多く、�Uにためにより少なく生産するということができる、と言うことです。

�F807　訳注*
　ここで訳注は、草稿研究からエンゲルスにケチをつけ、「マルクスには、単純再生産から拡大再生産への移行を考察する意図はなかった」と断じていますが、ykbdataはそうは思いません。
　紹介されているマルクスの草稿の、「単純再生産を前提にした場合に、このｍはどうなるのだろうか？これは単純再生産の場合の�Tで考察すべきである」の意味は、単純再生産では�Tの資本家の「収入」である�Tmは、�Uの生産物である享楽手段を含む消費諸手段に「支出」され「消費」されます。この「消費」を「節欲」して、「蓄積せよ」というプロテスタントの神の声にしたがって追加不変資本とし、拡大再生産の契機としたのです。
「新版」はマルクスの草稿を「改竄」したエンゲルスへの批判にあふれています。エンゲルスの編集がすべて正しかったとは思いませんが、ykbdataはエンゲルスがどんな思いでマルクスの言葉を言い換えたのか、もっと全体の流れの中で吟味すべきものと思います。

　ここではこのように形成された蓄蔵貨幣を、「潜勢的貨幣資本」あるいは「仮想的追加貨幣資本」という概念に発展させられていますが、振り返ってみましょう。なぜ「潜在的」というかというと、貨幣蓄蔵になってしまうから拡大再生産ができないので「潜在的」というのでなく、「逆である」、すぐに拡大再生産に投入できないから「潜在的貨幣資本」になるのだと、第2章第2節「蓄積、および拡大された規模での再生産」 で、すでに取り扱われていて、12年前（2020年時点での、すなわち2008年）のykbdataもすでに語っています。まさに、「沈殿」する感じです。

�Fp808〜p809　「こうして…」〜「（�Tの）…」
　次からはp808の末尾までしつこいくり返しで、言っていることは、単純再生産のもとでこの仮想的追加資本は準備される、�Tの労働者の剰余労働によるものであり�Tの資本家の新たな貨幣支出がまったくともなわない（p808）、さらに部分Ａ（不変資本の追加的諸要素を売るだけのグループ）のもとにある仮想的（追加）貨幣資本は、仮想的追加生産資本のＢへの販売によるものだ、などと述べています。
　p808の末尾からの金生産の話は、仮想的追加貨幣資本は流通している貨幣が蓄蔵されるもので、拡大再生産への移行には金の増産は必要ないよ、という事です。

�Fp809　「そこから…」
「さらに次のことが言える」から（一）も（二）もは当たり前のことを言っているが、その目的はフラートンの「資本の過剰」を批判するためです。
　次の第三部信用論にも踏み込んだ部分が大事です。

�Fp810
　蓄蔵貨幣としては、そしてしだいに形成されていく仮想的貨幣資本としてはは絶対に不生産的であり･･･仮想的貨幣資本として蓄蔵されていくこの剰余価値を利潤にも収入にも使用できるものにしようとする欲求は、信用制度と「有価証券」とにその努力の目標を見いだす。

　これは、銀行と株式会社によって、蓄蔵貨幣の形態をとっている多くの仮想的貨幣資本が集められ、より大きな、より強欲的な貨幣資本となることを意味しています。

�Fp810〜p811　「仮想的貨幣資本に転換される…」
　ただし「分割」された仮想的貨幣資本の投下先が大部門�T内の産業とは限りません。いまや鉄鋼業がシイタケ栽培に乗り出しています。（2020年より前の話）仮想的貨幣資本の「分割」は説明する必要はないでしょう。

�Fp811　「剰余価値の売り手である…」
　次にやっと部分Ｂ（不変資本の追加的諸要素を買うだけのグループ）が出てきます。これまで部分Ａについて考察してきたが、部分Ｂは「違った事情におかれている」としてＢについて
（一）彼ら（分部Ｂ*ykb）の手中ではじめてＡ、Ａ´、Ａ"などの剰余生産物が追加不変資本として実際に機能する。…
（二）この剰余生産物が彼ら（分部Ｂ*ykb）の手にはいるためには流通行為が必要であって、彼ら（分部Ｂ*ykb）はその剰余生産物を（分部Ａから*ykb）買わなければならない。
（一）も（二）も当たり前です。

�Fp811　「（一）につけ加えて…」
　ここでマルクスは、拡大再生産に移行する大切なカギをポロリと漏らします。すなわちＡの本生産年度の剰余生産物（仮想的追加不変資本）は翌年度以降に（買われて）Ｂの手中で機能する！ということです。（実はこれは部門�Tと�Uの関係でも同様なことなのです！）ですから翌年度以降に回す仮想的追加貨幣資本、すなわち（二）の購買資金をＢはどこから手に入れるのかと謎をかけます。

�Fp811〜p812　「（�Tの）…」〜「けれども…」
　謎かけの答えはマルクスらしくなくアッサリ出てきます。「（�Tの）ＡたちとＢたちとは、剰余生産物を追加的な仮想的貨幣資本に転化する貨幣を交互に提供し、また、新たに形成された貨幣資本を交互に購買手段として流通に投げ返す」つまり、単純再生産で別の観点からアッサリ触れたこと、不変資本の大部門�T内での売買（相互補填、自己補填とも言う）です。

　不破さんは、この直前の「しかし、これでわれわれはただ堂々めぐりをしているだけである」と問題の解決を見なかったとしてます。（「読む」�D、ｐ１３０）しかしykbdataは、この「２　追加不変資本」は、節の冒頭に述べたように、追加貨幣資本はどこから来るのかを考察しているのですから、�Tの部分Ａと部分Ｂがお互いに提供し合う、と解決しているのではないかと思います。だから「追加不変資本」という項目名になっているのではないでしょうか。

�Fp812〜p814　「ここで前提されている…」〜「（�Tの)Ｂ、Ｂ´、Ｂ"…」
　最後にマルクスは、またもや弁証法的否定を行います。拡大再生産のためには新たな貨幣が必要だ、たとえ信用制度が貨幣量を小さく調整しようとも、それが再生産過程を攪乱する可能性が大きくなろうとも、金属貨幣の流通が基盤であると。
　項末の部分を読み直して、ここは信用論のこのことの予告になっていると思いました。

　第２項「追加不変資本」の最後に、「反省された」〔媒介された〕というヘーゲル論理学の用語について、ykbdata過去の研究にもとづいて解説しましょう。

「反省」という概念は、ヘーゲルの「小論理学」第二部「本質論」の冒頭１１２節に「反照」という言葉と同義語として登場します。ヘーゲルの、マルクス以上の「蒙昧遊戯」には付き合いません。20年以上前（すなわち2000年以前）、「資本論」を理解するためにヘーゲル弁証法と格闘していた時のykbdata自身のメモを読み返すと図解もありました。

　簡単に言うと、本質的なものが特殊化して具体的個別的現象となるが、それは本質をはなれた「仮象」である。本質は現象に向かい、鏡の反射のように本質に帰ってくる。これを「反省」すると言うらしい。つまり「賃金は労働力の価格」という本質は、見かけ上「賃金は労働の価格」と現象するが、反省すれば「賃金は労働力の価格」という本質が見えてくる、ということらしい。「らしい」というのは、どうでもいいことをこねくり回すヘーゲルは本音があってなきが如く、常にひとところにとどまっていないのが「弁証法」なのです。
　一つだけ当時書いた図を紹介しましょう。

　考察は目の前の現象から原初的な本質にさかのぼり、叙述は発生論的に行う。原初的な物々交換経済、商品経済、信用と利子生み資本の登場と追いかけることも、価値論、循環論、回転論、再生産論、そして剰余価値の利潤、利子、地代への分解と三大階級の闘争と展開していくのも、すべてヘーゲル風のグルグル回しの「入れ子方式」「層構造」になっています。
　上図の「余計なものが身について」は、今や国営賭博場のようになった金融市場のことを当時も思い描いていたのでしょう。ykbdataは、ヘーゲル哲学との格闘のなかで（今も格闘中）「資本論」の弁証法的方法と「蒙昧遊戯」を解き明かす術を身につけてきました。

　もう一つ、明かしておきましょう。ykbdataは、「資本論」を読み解くためにはヘーゲルを勉強しなくてはいけないと思っていたころ、ヘーゲルの「小論理学」（岩波文庫）上下２冊を、労働者教育協会の理事だった前田堅一郎さんから「あげる」と渡されました。奇遇です。「小論理学」には前田さんの赤いボールペンの書き込みも残っています。

　３　追加可変資本　�Fp814〜p815
　これについては第一部の22章、23章で十分論じているので、マルクスにならって省略します。

２０２０年８月１０日 ｙｋｂｄａｔａ（2024年7月10日改定）

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