◆◆◆新版｢資本論｣の研究◆◆◆
｜「新版『資本論』の研究」のトップ ｜第一部の目次 ｜前のページ ｜次のページ ｜メール｜＃０１３：機械設備と大工業 ③p652～p884 （今後ページ表示は新版のみとします）
--「新版『資本論』オンラインゼミ」第6回目はここからです第１３章「機械設備と大工業」は第８章「労働日」と同様な二つの特徴を持っています。一つは単一の章としてはかなり長く、マルクスの原稿あるいは初版では、節分けや中見出しがまったくなく、大変読みにくいものでしたので、エンゲルスがそれをいくらか改善せざるを得なかったことです。もう一つは、「労働日｣で展開した、イギリス政府の公式文書を使っての、資本の労働者に対する容赦のない搾取へのするどい告発です。もっとも、資本の労働者に対する搾取強化の方法は違ってきていますが。
第１節 機械設備の発展 ③p652
機械設備が労働の労苦を軽減したかどうかは別として、資本にとって「機械設備は、商品を安くして、労働者が自分自身のために費やす部分を短縮し、彼（労働者*ykb）が資本家に無償で与える労働日の他の部分を延長するはずのものである。機械設備は剰余価値の生産の手段である。」機械設備の導入は相対的剰余価値の生産のためだと、まず結論だ初めに出てきました。マニュファクチュアにおける生産様式の変革は、労働力をどう配置するか、どう結合するかにもとづいていましたが、大工業では労働手段、すなわち機械の導入によります。
③p655～p656
次にマルクスは、機械とは何かという問題に取り組み、経済学的な定義をキチンとおこないます。すべての発達した機械設備（大工業に利用される機械設備）は原動機、伝動機構、道具機（作業機）からなっている。（p655）動力源の蒸気機関の発明ではなく、労働対象（原材料・部品)に直接作用する道具機こそが、18世紀産業革命の出発点をなし、マニュファクチュアから機械制大工業に移行する出発点である（p656）と論じます。
18、19世紀の主な道具機の発明と同時期のイギリスにおける綿花消費量は下表のようになります。
| 年代 | 綿花消費量 （百万ポンド） | 発明の内容（年) |
|---|---|---|
| １７００ １７１０ １７２０ １７３０ １７４０ １７５０ １７６０ １７７０ １７８０ １７９０ １８００ １８１０ １８２０ １８３０ １８４０ １８５０ |
１．１ ０．１ １．８ １．５ １．５ ２．６ １．７ ３．２ ６．６ ３０．６ ５１．６ １２４．０ １２０．０ ２４８．０ ４５９．０ ５８８．０ |
ケイの飛杼（とびひ）(1733) ポールのローラー紡績機(1733) ハーグリーブズのジェニー紡績機(1764) ワットの蒸気機関(1764) アークライトの水力紡績機(1769) クロンプトンのミュール紡績機(1779) カートライトの力織機(1785) ロバーツの改良力織機(1825) |
③p661～p662
おもしろいのは、マニュファクチュア以前から人力の代わりに動力として風車、水車とともに馬が使われたが、気ままな馬の力は制御がたいへんという農業経営者の苦情ばかりでなく、「馬力」という動力単位が今日まで伝わっているということです。エンゲルスはp682の原注（一○九ａ）で当時の「一馬力」の定義を紹介しています。
③p665～p669
機械は手作業にどんどん置き換わって行きますが、その置き換わり方には二つに区別されます。
一つは同じ製品が多数の工程を結合した一台の作業機から作られるもの、その例は封筒製造機（p665～p666）です。これはマニュファクチュアによって分割された作業が、さまざまな道具が結合された一つの機械によって完遂されます。
もう一つは、本来的機械体系で、各作業段階を分担する機械の連鎖によって遂行されます。その例に羊毛マニュファクチュアがあげられています。（p667）ついには、ある段階の機械と次の段階の機械の間の半製品の移動を人の手によらない自動的体系があらわれます。（p667～p669）
③p673～p675
ある産業部面での生産方法の変革は、他の産業部面での変革を引き起こします。例えば綿紡績業が機械化されれば、綿糸供給量が激増し、それに続く綿織物業、漂白業、捺染業、染色業が変革されます。また、綿紡績に必要な綿花の大量に供給するために、綿花栽培業の機械化も促進されます。原料や製品のための運輸・通信手段の発展も必要となります。生産方法の大変革は、大量の機械設備を必要とするため、マニュファクチュア的機械製造を乗り越え、機械による機械の生産まで技術的基盤を発展させます。つまり、機械制大工業は、自分自身が機械の生産を掌握することにより、「自分自身の足で立」ちます。
③p677～p678
節末では「機械は…直接的に社会化されたまたは共同的な労働によってのみ機能する」と述べ、機械制大工業は生産手段に社会的性格を与えるとしています。
第２節 生産物への機械の価値移転 ③p678～p692
大工業ではマニュファクチュアと比較にならないほど機械設備の価値は膨張しています。（p679）しかし、「機械は労働過程にいつも全面的にはいり込むが、価値増殖過程にはつねに部分的にはいり込む」と、まず結論的に述べます。（p680）ところが、初期の資本家の観念では、機械設備の価値は生産物の価値にはいり込まないように見え、その価値は利潤から補填されるように見えます。（原注（一○九）③p681）
③684～p686
機械設備による機械設備の生産は、機械設備の価値を減少させます。（p684）いっぽう、本研究ではこれまで詳しく触れませんでしたが、不変資本のうち労働諸手段（道具、機械設備）の価値は徐々に生産物に入り込みます。同じ不変資本でも、生産過程であとかたもなく消費される原料や副材料の価値はすべて生産物に入り込みます。（第三篇第６章 不変資本と可変資本、②p347～）道具を使った労働から機械設備への移行は、機械設備によって生産物に付け加えられる価値が、労働者が道具を使った労働で付け加える価値より小さい限り（p686）つまり生産物の価値（価格）が下がる限り、おこなわれる可能性があります。すなわち、相対的剰余価値の生産という「資本主義的生産様式の内在的法則」のテコとして機械設備が次々と導入されます。
③690～691
しかし、例えばある部門で機械を導入して過剰労働（過剰人口）が作り出されると、労賃が低下し、（機械を使用するより賃金の安い労働力を使用する方が有利となり）機械の使用をさまたげることもあるとマルクスは続け、女性や児童を浪費すると告発します。
このように、労働者のたたかいによる時短は、資本の「生産性」を高めることを促進しますが、資本の側からの生産性向上の変革は、自動的には時短をもたらしません。労働者のたたかいがなければ、時短ではなく「過剰人口」が作り出されます。つまりリストラによる失業、今の日本です。ですから、今の日本経済にとって労働時間の短縮は決定的なのです。サービス残業をなくせば９０万人、残業をすべてなくせば２６０万人の雇用が生まれると、財界のシンクタンクである社会経済生産性本部も認めています。
第３節 労働者におよぼす機械経営の直接的影響 ③p693～p735
マルクスは次の節で「工場全体、しかもそのもっとも完成された姿態における工場全体」を考察するのですが、その前にこの節で、機械設備の導入が労働者に強いる苦悩を告発します。それは
①婦人労働および児童労働
②労働日の延長
③労働強化
で、ほぼ歴史的に叙述されています。
ａ 資本による補助労働力の取得。女性労働および児童労働 ③p693～p706
マルクスはp694「機械は、労働者家族の全成員を労働市場に投げ込むことによって、夫の労働力の価値を彼の家族全員に分割する。そのため機械は、彼の労働力の価値を減少させる。たとえば四つの労働力に分割された家族〔の労働力〕を買い入れることは、以前に家長の労働力を買い入れた場合よりもおそらく多くの費用がかかるであろうが、しかし、その代わり、四労働日が一労働日に取って代わるのであって、それら労働力の価格は、四労働日の剰余労働が一労働日の剰余労働を超過する分に比例して下がる」と、かなり難解なことをさらりと述べています。この時マルクスの頭の中には、下のようなイメージが展開されていたはずです。
すなわち、夫（成年男性）だけの場合の必要労働時間と剰余労働時間の比は６時間対６時間から、家族全成員に分割された場合の合計の必要労働時間と剰余労働時間の比は８時間対２８時間に変化します。ただし、妻の労賃は夫の半分、さらに児童の労賃はそのまた半分で、児童の労働時間は夫の半分と仮定しました。
それでも家族全成員の合計賃金は増えます。しかし、増えた分は妻や児童の家内労働の代替品の購入費に割り当てられて帳消しになると、p695の原注（一二一）で告発しています。
③p695～p705
「婦人労働および児童労働」の項については第８章「労働日」ですでに論じていますので、ここでは詳しく触れません。しかし、婦人および児童労働の悲惨な実態とともに、機械制大工業のもとでの経済学的な作用はどうかということだけ触れておきましょう。第１２章「分業とマニュファクチュア」のもとでは、労賃の安い婦人および児童労働は、それが自らの労賃の引き下げにつながる成年男子労働者の抵抗に合います。（③p648）しかし機械制大工業のもとではこの抵抗が打ちくだかれます。（p705頁末）機械設備は、まずは婦人と児童を犠牲にばく進し、マニュファクチュア時代にはなし得なかった、成年男子労働者の服従を勝ち取ります。
ｂ 労働日の延長 ③p707～p717
機械設備の導入は、労働者の抵抗と法律による社会の強制がなければ、資本家をして、自然的限界を超えて労働日を延長する、強い衝動を起こさせます。（p707）なぜかというと、いっそうの剰余労働の吸収（絶対的剰余価値の生産）とともに、機械設備の社会的摩滅（これは詳しくは第２部で取り扱う）を恐れるからです。（p710）
つまり、自分がいまの生産方法で生産している間に、新しい生産方法で同業の他の資本家が自分を打ち負かしはしないかと恐れるのです。（p712のアシュワース弁）導入した機械設備をなるべく早く償却し、次々と改善された新たな機械設備および新たな生産方法を一刻も早く取り入れたいと願うし、競争によって強制されるのです。もし、同業の他の資本家よりも先んじて大きく改善された生産方法および機械設備の導入に成功すれば特別剰余価値を手にすることもできるのです。
③p714～p715
19年ぶりに読み返すと（2度目ではないが）、特別剰余価値を失った資本が、労働日の延長だけでなく、労働強化も強いること、機械の導入で相対的剰余価値を増やして特別剰余価値を獲得した資本は、その産業部門での機械の普及で特別剰余価値の喪失するというのが「内在的矛盾（法則）」であるが、資本はそれを意識せずに絶対的剰余価値の生産をめざして労働日の乱暴な延長へのかりたてられると、重要なことを述べています。
資本の意識は機械の普及による商品価格の低下、すなわち「利潤率」の低下にとらわれます。【2021年某月某日追加】
③p716
マルクスは節末で機械の本来的役割である「労働時間短縮のための最も強力は手段が、労働者およびその家族の全生活時間を資本の価値増殖のために自由に処分できる労働時間に転化するもっとも確実な手段に急変するとという、経済学的逆説が生まれる」と告発します。
ｃ 労働強化 ③p718～p734
このような、労働者の生命と健康を省みない労働日の延長はやがて法律によって規制されます。こうなると資本家の剰余価値を求める衝動は、規制された労働日の中での労働密度の強化に必然的に向かいます。機械設備の生産スピードを速めたり、１人の労働者の受け持つ作業機の台数を増やしたり、労働強化のテコとして機械設備が工場を支配し、労働者はこれに服従させられます。（p723）実際イギリスでも、１８３３年の１２時間法、１８４７年の１０時間法に際し、資本家は労働強化をともなう生産方法の大改革（悪？）をもって応えました。（p724～p731、ここは再々度労働日の社会的規制の年表を見ながら読みましょう。）こうした労働強化は、労働日の短縮による剰余価値の減少を補うばかりか、それ以上の剰余価値の生産をすすめます。
マルクスはここではあえて「絶対的剰余価値」と「相対的剰余価値」の区別をしていません。前にも述べてように、剰余価値に「絶対的」な剰余価値と「相対的｣な剰余価値との区別があるわけでなく、剰余価値の生み出し方、つまり搾取の仕方の区別です。労働強化による剰余価値の生産を「相対的」剰余価値の生産と見るか、「絶対的」剰余価値の生産と見るかは相対的な問題です。
機械設備の作用も、当初は労働時間の延長の、すなわち絶対的剰余価値の生産のテコになりますが、機械による生産力の向上は必要労働時間を短くする相対的剰余価値の生産にも同時に働きます。
③p720
ここで、マルクスがさらりと「労働の生産力の増大による相対的剰余価値の増加（この言い方自身が誤解を与えるので『相対的』を削除するか、『相対的な剰余価値の増加』と言い換えるべき*ykb）を別とすれば、いまや、たとえば、6と3分の2時間の必要労働に対する3と3分の1時間の剰余労働は、以前に8時間の必要労働に対する4時間の剰余労働が与えた同じ価値量を、資本に与えるのである」は簡単そうだが、経済学的には詳しい解明が必要です。これを例によって図にすると次のようになります。
6と3分の2（6.66…）時間と、3ろ3分の1（3.33…）時間という数字は、２割労働強化した一番下の図の10時間を8:4に分割すると出てきます。（10時間の12分の8は6.66…、12分の4は3.33…です）
このように、労働強化は必要労働を小さく剰余労働を大きくし、その比率を変えますので、相対的剰余価値の生産と言えます。と同時に、労働が生産物に付け加える価値および剰余価値の絶対的大きさも大きくしますので、絶対的剰余価値の生産とも言えるのです。
労働強度の2割増には、自動装置のスピードを2割早くする方法と、1人の労働者が担当する作業機械をたとえば5台から6台に増やす方法とがあります。
なお、簡単のために日労賃を８シリングとしましたが、当時の日労賃の相場は２シリングに達しませんでした。
第４節 工場 ③p735～p750
冒頭に第１節から第３節までのまとめが述べられています。次にマルクスは、工場、特に自動機械を中心とする工場が、必要労働時間を著しく減らすだけでなく、労働者の資本家に対する従属を完成させるとして、機械が労働者の抵抗を打ち砕く、資本家にとっての武器になっていることを告発します。（p740）機械は特に神経系統を疲れさせ、単純な作業の絶え間ない反復が、「いっさいの自由な肉体的および精神的活動を奪い去」（p741）ります。チャップリンの「モダン・タイムス」は、まさにマルクスが告発した、自動機械に縛り付けられた人間精神の苦悩を描いているのではないでしょうか。
第５節 労働者と機械との闘争 ③p751～p768
機械は、それにとって代わられる労働者を無用なものにし、仕事を奪います。ですから、労働者は本能的に機械を憎みます。画期的な機械が大量に導入されるたびに、大量の失業者が生まれ、彼らは暴動や打ちこわし、焼きうちで機械を破壊しました。労働者の機械に対する闘争の歴史のなかで有名なものが、1800年代の最初の15年間の、繊維部門の機械打ちこわしの「ラダイト運動」です。しかし、この運動は反動政府の弾圧に口実を与えました。「労働者が機械設備をその資本主義的充用から区別し、それゆえ彼の攻撃を物質的生産手段そのものからその社会的利用形態に移すことを学ぶまでには、時間と経験が必要であった」のです。(p752）
「梳毛」（そもう）
羊毛材料をくしで梳（す）いて短い繊維を取り除き長い繊維の方向をそろえる作業、あるいは梳毛した繊維を使って生産した毛織物を現し、薄く光沢があるのでスーツなど高級品をつくるのに使用する。
「梳毛」に対して「紡毛」（ぼうもう）がある。簡単に言えば紡毛製品は毛糸のセーターなど。
③p757
機械が一挙に労働者を駆逐することもあれば、その過程が徐々に進むこともあります。機械との競争に巻き込まれた手工業労働者の窮乏は悲惨なものとなります。マルクスは1930年代のイギリスの木綿手織工と同年代のインドの木綿手織工の大規模な餓死を、その例として取り上げています。
③p765
機械の導入が労働者の暴動の原因となることもあれば、後には、労働者の資本家に対する抵抗および要求が機械の導入のきっかけとなることもあります。マルクスは例として、大規模な長期ストライキの結果としての蒸気ハンマーの発明や自動ミュール紡績機の発明をあげています。文字通り、機械が労働者の抵抗を打ち砕くのです。
③p766～p768
それにしても、アンドリュー・ユア博士の「工場の哲学」はすざまじくあからさまで、マスサスの「人口論」にも通じる、身の毛のよだつものです。
第６節 機械によって駆逐された労働者にかんする補償説 ③p769～p784
ここは、機械の導入で労働者を放り出した資本家の言い訳を取り上げています。主な言い訳は次の2つです。
①駆逐した労働者の賃金に相当する部分（遊離した資本）がやがて同数の労働者を就業させる。（③p769）
②機械設備の製造部門が労働者を就業させる。（③p770）
③p769～p770
1つ目の言い訳に対してマルクスが反論します。簡単のために、建物や石炭などのは度外視するとして、年の原材料3000ポンド、年3000ポンドで100人の労働者を雇用する壁紙製造所が、50人の労働者を解雇して1500ポンドの機械を導入する例の機械導入前後の資本構成は
Ｃ＝3000ｃ＋3000ｖ から
Ｃ＝4500Ｃ＋1500ｖ に変わるがこれでは資本は遊離されず1500ポンドの可変資本が1500ポンドの不変資本に変わるだけだと言います。
⑧p770
では50人の労働者を解雇して1000ポンドの機械を導入した場合、遊離した差額の500ポンドで50人の労働者が雇用されるかというと、そうではない、500ポンドがそのまま労働者を雇用したとしても500ポンド÷30ポンド（1人当たりの労賃）＝16.67人しか雇用されないし、そればかりか、「500ポンドは、資本に転化されるためには、ふたたび一部が不変資本に転化されなければならず」、例えば他の工場で4500c＋1500ｖの資本構成が変わらないとすると、500ポンドの資本が投下されても375ｃ＋125ｖとなり125÷30＝4.17人分にしか労働力に転化されないと指摘します。
③p770
次は２つ目の言い訳の「機械設備の製造部門が労働者を就業させる」という主張に対し、1500ポンドの機械の価値は可変資本（労賃）だけでなく固定資本分や剰余価値分が含まれているので、機械で駆逐された労働者より少ない労働者しか雇用しないと反論します。
ここまで読んで感じたのは、俗流経済学派者も「不変資本」が見えず、投下した資本は社会体に見るとすべて可変資本（労賃、あるいはそれに相当する生活所手段の価値）となるという、いわゆる、「スミスのドグマ」に捉われているのように思います。
③p771～p774
次は「補償説」と呼ばれる資本家の言い分です。機械導入で1500ポンドの生活手段が労働者から「遊離」するということは、資本家にとっては1500ポンドの資本が遊離することで、それは次の投資口で労働者と再会しなければならないのであり、その時は補償されるというのです。これを図にすると下のようになります。灰色の字が資本家の見方で、黒が実態です。
③p777～p778
マルクスはこの点で、ある産業部門での機械の採用が他のある産業部門の労働者の雇用をどれだけ増やすかは、他のある産業部門の資本構成比によると、変動率は示さず概念的に述べています。これはのちに本格的に論議されることで、現時点では難解な問題です。しかし、次の具体例は分かりやすいと思います。
③p780
イングランドではジェニー紡績機、スロッスル紡績機、ミュール紡績機によって生み出された80万人の綿職布工が、ついにふたたび蒸気織機によって滅ぼされるまで続いた。こうして、機械で生産される衣服材料が豊富になるとともに、裁縫工、女性仕立工、女性縫物工などの数が、ミシンが出現するまで増加する。
つまり、紡績機の発明と導入で綿糸の供給が増加すると手織り工が増えるが、力職機の導入によって手織り工は失業させられる。しかし、綿布の供給は増えて手縫い工が増える。しかし、ミシンが出現すれば手縫い工も絶滅する、ということです。
この節で重要なのは、これまで見てきたような機械設備の破壊的作用は、機械設備の一般的性質によるものでないということです。マルクスは、機械設備の一般的性質（資本主義をのりこえた未来社会で発揮される本来的作用）と、機械設備の資本主義的使用による作用を対比的に、次のように４つにまとめています。
③p775
したがって、機械設備は、それ自体として見れば労働時間を短縮するが資本主義的に使用されると労働日を延長する、それ自体としては労働を軽減するが資本主義的に使用されるとその強度を高める、それ自体としては自然力に対する人間の勝利であるが資本主義的に使用されると自然力によって人間を抑圧する、それ自体としては生産者の富を増加させるが資本主義的に使用されると生産者（労働者*ykb）を貧困化させる。
③p780～p784
その後、マルクスは機械製大工業が資本家階級のための奢侈品製造業を、ついには世界市場を作り出すことまで言及し、そのために新しい産業部門である、通信業や汽船運工業などを発展させ、さらには膨大な数の召使も生み出すと述べます。奢侈品製造部門と生活必需品製造部門との絡み合いは＃０４０：第三篇２０章 単純再生産 第４節 必要生活諸手段と奢侈品で詳しく論じられます。
－－「新版『資本論』オンラインゼミ」第７回目はここから
第７節 機械経営にともなう労働者の反発と吸引。綿業恐慌 ③p784～p804
「反発と吸引」は弁証法的世界観の一つです。事物には発展と後退など、相対する逆の両面があり、その総合が事物の発展と後退に反映するという見方です。たとえは水の蒸発を見てみると、その液相と気相の界面では、水状態の分子が水蒸気になる現象と、水蒸気が水に戻る現象の平衡状態から水が水蒸気になる現象が優位になり、水は蒸発します。
③p784～p785
マルクスは最初に、機械の新たな採用は競争相手の手工業の労働者を街頭に放り投げてから、のちに増産のために街頭の放り出した労働者より多くの労働者を苦役させる（雇用する）と告発します。
③p786～p787
次にマルクスはイギリスの紡績業と織物業の発展と労働者の減少を政府の資料で実証し、ある工場での労働者数の絶対的増加は部門の合併など、全体的には労働者の減少をともなうが局所的に増えるなどという見かけ上の増加だと言います。
③p788～p789
さらにマルクスは、機械経営自身の成長で、駆逐したマニファクチュア労働者や手工業者よりも機械工場労働者の方が多くなることはありうるが、投下資本に対する労働者数の割合では相対的に減少する、絶対的増加と相対的減少が両立する、と述べます。
③p790～p791
ついにマルクスは、「理論的叙述そのものがまだ説きおよんでいないが」といわゆる拡大再生産論のイメージについて、機械の採用で得た大きな利潤を原動力に絶えず新たな投資へ突き進む「疾風怒濤時代」、すなわち産業革命をスケッチ的に描き、ついに機械が機械を生産するまでになると、その原材料の生産部門も変革され、機械制大工業はその生産拡大の制限である原材料と販売市場を、植民地の獲得と世界貿易で突破すると論じます。
③p792～p795
その例として東インド、合衆国との交易を資料を示し（p792～p793）、なんとマルクスは、話の途中で、熱病的な生産による労働者の大動員、とそれに続く崩壊（恐慌）による労働者の放り出しの周期的到来が考察されています。（p794）イギリスが農業を犠牲にして穀物輸入を増やす続ける資料も示します。（p795）まるで食料自給率が37％（2020年）まで落ち込んだ日本です。
③P796～p797
労働者の反発と吸引の具体的イメージは赤井のように記述されています。資本構成の高度化（蓄積）による労働者の反発と吸引についていは蓄積論の一節を参照してください。
③p796～p797
したがって、工場労働者の数の増加は、工場に投下される総資本がはるかに急速な割合で増大することを条件としている。しかしこの過程は、産業循環の干潮期と満潮期の内部においてのみ行われる。そのうえこの過程は、あるときには潜在的に労働者に取って代わり、あるときには実際に労働者を駆逐する技術的進歩によって絶えず中断される。機械経営におけるこの質的変動は、絶えず労働者を工場から遠ざけるか、あるいは新兵の新たな流入に対して門を閉ざすのであるが、他面、諸工場の単に量的な拡張は、投げ出された労働者のほかに新しい補充人員をも飲み込む。このように労働者は、不断に、反発されたり吸引されたり、あっちにやられたりこっちにやられたりするのであって、しかもそのさい、徴募される者の性、年齢、および熟練度は絶えず変動する。
③p797～p805
綿工業の1815年代から1860年代まで運命の「概観」（p797～p805）をまとめてみると、約10年ごとに繰り返される恐慌と労働者の運命は、次の表のようになります。
| 停滞 | 好転 | 繁栄 | 恐慌 |
|---|---|---|---|
| 不況(1815～1821) | 繁栄(1822) | 大繁栄(1824) | 恐慌(1825) 暴動(1826) |
| わずかの好転(1827) | 蒸気織機と輸出の大増加(1828) | 輸出記録的増加(1829)過剰生産(1830) | |
| 持続的不況(1831～1833) | 機械設備の大増加と人手不足(1834) | 大繁栄（1835～1836) | 不況と恐慌(1837～1838) |
| 大不況、暴動、軍隊出動、ひどい窮乏(1839～1843) | 回復(1844) | 大繁栄(1845) | 恐慌、賃金引下げ(1847) |
| 持続的不況、軍隊出動（1848) | 回復(1849) | 繁栄(1850) | |
| 物価・賃金の下落(1851) | 好転の兆し、ストライキの頻発(1852) | 繁栄、ストライキの頻発(1854)大繁栄（1856) | 初めての世界恐慌(1857) |
| 好転(1858) | 大繁栄(1859)、綿工業の絶頂（1860) | ||
| 綿花飢饉、完全な崩壊(1862～1863) |
③p799～p803
最後の「綿花飢饉、完全な崩壊」を「恐慌」としなかったのは理由があります。恐慌は過剰生産から生まれますが、この「完全な崩壊」は過剰生産からではなく、アメリカの南北戦争による「綿花飢饉」から起こったのです。つまり、過剰生産ではなく、綿花が入らず生産が停滞したのです。恐慌と違って、生産すれば売れたわけですから、資本家はここぞとばかりに出来高賃金を引き下げ、工場の環境維持の手を抜くなど「価値低い身体における実験」（人体実験のこと、訳注*5）で、次の大もうけを準備したのです。
資本論第１部以降の恐慌も列挙しておきましょう。
1866年
1878年
1882年
1890年
1900年（独占資本主義へ移行）
1907年
1920年（第１次世界大戦後はじめての恐慌）
1929年（世界大恐慌、国家独占資本主義へ移行）
1937年
1957年（第２次世界大戦後はじめての恐慌）
1967年
1974年
1980年
1991年
2000年
このように、世界市場と機械制大工業が生まれて以来、資本主義世界はおよそ10年に１回、今日まで19回の恐慌を経験していますが、その解決策を見いだせていません。（不破氏の資料より）
ykbdataが初めて本格的に「資本論」を学んだ、不破さんによる「代々木『資本論』ゼミナール」は2003年から2004年にかけて行われましたので、2008年の「リーマンショック」はそのあとで、この年表には入っていません。その「リーマンショック」の簡単な解説はこちらを参照にしてください。
リーマンショックは、21世紀に入って肥大化した金融市場のよって作り出された「架空の需要」のよる「過剰生産恐慌」をきっかけとする「世界金融恐慌」だと言われています。恐慌の直前には必ず「バブル」があります。
第８節 大工業によるマニュファクチュア、手工業、および家内労働の変革 ③p806～p840
ここでは、大工業がマニュファクチュア、手工業、および家内労働を次々と駆逐するかその支配下に組み込んでいった歴史的事実をおっています。読んでもらえばいいです。
ａ 手工業と分業とにもとづく協業の排除 ③p806～p808
作業機は手工業的経営の新たな基礎となることもありますが、作業機が、人力に代わって蒸気力あるいは水力で動かされるようになると工場経営に移行します。コヴェントリーの絹織物業では蒸気機関による原動力が小屋工場に賃貸しされ、小屋の中では、労働者の所有物である織機数台が絹織物を生産していました。こうした小経営と本来的工場のたたかいは１２年以上続けられましたが、当然、小屋工場の全滅に終わりました。(p807）
ｂ マニュファクチュアおよび家内労働におよぼした工場制度の反作用 ③p808～p810
機械設備および工場経営は、マニュファクチュアやそれに組織された家内労働も、一挙にあるいは徐々に変革します。前にも述べたように、マニュファクチュアは手工業的熟練を技術的基盤としていましたが、機械設備はこれを根本から崩し、婦人や児童など労賃の安い非熟練労働者（チープ・レイバー）を多く生み出します。農村の家内労働は、こうした機械経営およびマニュファクチュアとの苦闘を強いられるだけでなく、前近代的な寄生的搾取者によって悲惨な運命をたどります。（p810）
ｃ 近代的マニュファクチュア p811～p815
近代的マニュファクチュアも、機械制大工業からの圧迫を受け、労働者への過酷な搾取を競い合います。マルクスは、レンガ製造業、印刷業および裁縫業での婦人・児童労働の長時間労働とともに、職場環境の劣悪さとそれにともなう労働者の「道徳的頽廃」について、イギリス政府の「児童労働委員会」報告書を使って告発します。（p812～p813）「近代的マニュファクチュア」とは何か、どこにも定義がありません。次項ｃから類推すると「機械制大工業の支配下に組織化されたマニュファクチュア」でしょうか。
ｄ 近代的家内労働 ③p816～p823
また、機械制大工業の支配下に組織化された「近代的（農村*ykb）家内労働」の例として「レース仕上げ」の「女主人の家」、「レース学校」「わら編み学校」での児童労働の悲惨さについて、同じく「児童労働委員会」報告書で告発します。（p818～p822）私はここで感じるのは、後に論じられる「固定資本の節約」（労働者の生命や健康を顧慮しない職場環境）の現実の表れと、空想的社会主義者（後期のオーエンを除く）がこぞって堕落した労働者は信頼できないと感じた、これらの労働者の「道徳的頽廃」が、実は資本家が労働者を人間扱いしていいなかったことに起因するということを強く感じざるを得ません。
ｅ 近代的マニュファクチュアおよび近代的家内労働の… ③p823～p839
マルクスは最後に、こうした近代的マニュファクチュアや近代的家内労働が機械制大工業に移行し、工場法の規制で促進される変革を、革命的な作業機であるミシン（sewing machine）を例に論じます。(p826）ミシンは裁縫業、シャツ製造業、製靴業などのマニュファクチュア、近代的手工業、近代的家内労働の新しい基盤となりますが、やがて本来的な工場制度に移行します。この移行は不況と恐慌、蒸気力の利用が促進します。（p826～p830）
ここまでは資本主義の自然発生的な産業革命として進行しますが、工場法が適用されると人為的に促進されます。（p831）例えば１８６４年に工場法が適用された製陶業の資本家が「不可能だ」と叫んでいたことも、法律の強制のもとで、すべて可能となりました。（p832～p833）法律によって強制されるあらゆる規制が、機械制大工業へ資本を集中させるよう作用します。
③p834～p839
ここで注目したいのは、イギリス議会が経験的に法律による労働日と婦人・児童労働の規制が、遅れている産業部門の技術的水準を引き上げ（機械を開発・導入し）、生産力の飛躍的拡大を引き起こすことを知っていたということです。（p834）資本家のためのイギリス議会は、人道的な工場監督官の報告に同意し、労働者のために規制を強めるという表面上の行為とは別に、意識的にイギリス資本主義の発展のために、つまり資本家のために、法的規制を強化したのです。
ここで2010年の赤旗まつりでの不破議長（当時）の次の講演を思い出しました。
ヨーロッパの資本主義では当然のルールが日本にはありません。ソニーの盛田昭夫会長は９２年、「日本型経営」の異常について▽長時間労働▽給与水準が低い▽下請けとの関係が親企業本位▽地域社会への貢献に消極的▽環境保護が弱い―と列挙し、ヨーロッパやアメリカの資本主義にたいして顔向けできない、このやり方は世界では通用しない、しかし一企業の力ではやれないからと、社会でのルールづくりを求めました。
逆に言えば、現在の日本のように規制を取り払う方向は、資本主義のまともな発展をかえって損なうということです。政治の在り方によって、労働者と資本主義の運命が決まります。だから政権交代を！
第９節 工場立法（保健および教育条項）。イギリスにおけるそれの一般化 ③p840～p877
③p841～p845
労働日だけでなく、危険な機械の保護設備（p841～p842）、換気（p842～843）、初等教育（p844～p845）なども、法律による強制が必要でした。ここで注目すべきは、オーウェンの実験のように、工場制度から本来の教育が始まったとし、マルクスも、工場監督官も、シーニアさえも児童労働と初等教育の結合を主張していることです。マルクスは工場制度から芽生えた教育の萌芽は、未来の未来の教育として「全面的に発達した人間をつくるための唯一の方法」であろうと未来社会論を描きます。（p844～p845）
サッカーのワールドカップを契機に、世界の児童労働が問題視されていますが、現在のとり上げられ方は観念的です。児童労働の歴史的経済的必然性を見ず、先進国の基準で「児童労働は悪」と決めつけ、多国籍企業に「児童労働でサッカーボールをつくらないで」と要請しています。哀れみを向けられた児童は叫ぶでしょう、「ぼくの仕事を奪わないで！」と。
本論に戻ります③p847
徒弟制度の下での児童労働は、その狭さはあっても一般教育も技術教育もおこなわれます。しかし、大工業のもとでは、いわば意識をもった機械として扱われ、社会に強制されない限り教育は顧慮されません。手工業やマニュファクチュアのように、基本的には労働者が機械を使っている労働に比べ、機械に支配された児童労働が、その児童の精神的発達をどんなにゆがめるか、マルクスは印刷業で例証しています。
③p850～p851
一方でその反対に、常に労働過程の変革を強制される近代的大工業は、労働者の能力の多面性を求めるようになります。つまり、資本主義的生産様式は、一方で機械を武器にした分業の促進と労働の一面化をすすめながら、他方で、労働過程のどのような変革にも対応した労働の多面性を必要とするようになるのです。ここに初等教育の必然性があります。もっともこの必然性も、工場立法という強制を通じて実現されますが、マルクスはここに資本主義の発展のもとでの労働者の知的発達の必然性を見て、知的にめざめた労働者が、やがて政治権力を獲得する必然性を見ています。
ykbdataがある電子部品メーカーの試作ラインで技術指導をしていた時は、「工程表」「作業仕様書」を説明すれば理解可能な、高等数学や文学的素養がなくても高卒程度の学力をもつ労働者が必要でした。【2022/8/12追加】
③p854～p855
工場立法は初等教育だけでなく、古い家父長的な家族制度を打ち砕き、婦人および児童の地位と権利を宣言します。「資本主義制度の内部における古い家族制度の解体が、どれほど恐ろしくかつ厭（いと*ykb））わしいものに見えようとも、大工業は・・・婦人、年少者、および児童に決定的な役割を割り当てることによって家族と男女両性関係とのより高度な形態のための新しい経済的基礎をつくり出す。」（p855）
もっともイギリス議会の紳士たちには、資本による搾取の強化が女性や子どもたちに厳しい労働を強制するという本質は見えず、父親が妻と子供たちを搾取するのをやめさせるために工場立法を強化するのだと、「児童労働調査委員会」（1866年）の報告書をうのみにしているのですが。（p854～p855）
③p856～p864
繊維産業の大工場の規制にはじまった工場立法は、平等の条件のもとでの競争という、資本家の共産主義 の要求のために、その適用範囲を全産業分野へ、また家内労働の分野までに広げることになります。
③p865～p876
なお、p865の訳注にあるように、p865からの鉱山労働者の証言は、当初は原注だったものをエンゲルスが本文に組み入れたもので、読んでもらえばいいですが、p873の「もうたくさんだ！」はマルクスの怒りの叫びです。ykbdataもマルサスの「人口論」を読んで同じ叫びをあげたことがあります。
③p877
マルクスは最後に、再度工場立法が機械制大工業を発展させ、「おおきな社会的規模での結合された労働過程への転化」を促進すると、機械製大工業が未来社会を労働過程の変化の面でも準備することを臭わせます。
日本共産党の経済政策である「大企業の民主的規制」も、イギリスの工場立法のような作用をもたらすでしょう。サービス残業や横暴なリストラの規制をまず大企業からはじめることは、過去の経験からも有効であると言えるのです。
第１０節 大工業と農業 ③p879～p884
マルクスはこの節の冒頭で「もっとあとになってはじめて述べることができる」としていますが、第３部も地代論で終わっていて本格的に資本主義的農業経営を分析した部分はありません。この節は農業に触れた貴重な節で、そうした観点で読んでください。
③p880
北アメリカではなぜ農業機械が農業労働者を駆逐しないかは、第一部最後の近代植民論が参考になります。
③p880～p881
ここで問題になるのは、志位和夫委員長が最近（第28回党大会前後）、資本主義の矛盾としての地球環境破壊を、マルクスがここで極めて抽象的に論じている自然との「物質代謝を…撹乱する」と述べていることに関連付けていることです。残念ながら的外れだとykbdataは思います。
マルクスは、急増する都市人口が消費する食糧や衣料の原料が、耕地から大量に生産されて耕地の豊度が撹乱されると言っているのであり、大規模な環境破壊を言っているのではありません。「連作障害」の様なことを言っているのだと思います。志位委員長も「資本論」の大家ではなく、発展途上の一学徒です。
次回は 第５編 絶対的および相対的剰余価値の生産 ですが、トピックス「論争：労働強化は絶対的剰余価値の生産か相対的剰余価値の生産か」も予定しています。
2002年7月16日（2022年7月までに『新版』で改定・補足） ykbdata
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