◆◆◆新版｢資本論｣の研究◆◆◆
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--「新版『資本論』オンラインゼミ」第5回目はここからです第四編 相対的剰余価値の生産 第10章 相対的剰余価値の概念
必要労働時間（労働者の賃金に相当する価値を生産する社会的必要時間）を超えて労働日を延長し、剰余価値を生産することをマルクスは「絶対的剰余価値（の生産*ykb）」と名づけました。
第8章では労働日（一日の労働時間）の制限をめぐる資本家と労働者の半世紀に及ぶたたかいを振り返り、労働者の健康を守るためには社会的規制が必要で、それは返って資本主義の発展をもたらしたこと、9章では剰余価値の総量を支配する法則について明らかにしました。【2022/4/15追加】
労働日の延長による絶対的剰余価値の生産に対し、労働日は不変だが、必要労働時間を短縮して剰余労働時間を相対的に増やし、剰余価値の生産を増大させることを、マルクスは「相対的剰余価値（の生産*ykb）」と名づけます。感違いする人が多いのですが「絶対的剰余価値」と「相対的剰余価値」と、剰余価値に２種類あるのではありません。その違いは、資本家が剰余価値を増やそうとする方法の違いです。
確かにマルクスは「労働日の延長によって生産される剰余価値を、私は絶対的剰余価値と名づける。これにたいして、剰余価値が、必要労働時間の短縮およびそれに対応する労働日の両構成部分の大きさの割合における変化から生じる場合、私はこれを相対的剰余価値と名づける」と述べています。（③p558③Ｐ５５０）しかし、剰余価値を表す商品に色がついていないように、「絶対的剰余価値」にも色がついているわけではありません。つまり、マルクスが「絶対的剰余価値」および「相対的剰余価値」というときには、剰余価値の種類を区別しているのではなく、あくまでも剰余価値を増やし方を区別しているのです。
マルクスは、新しい経済学的概念を規定するのが好きです。ykbdataはここではやり過ぎだと思います。【2021/7/28追加】
事実、マルクス自身も第五編１４章絶対的および相対的剰余価値（③p888③Ｐ８７４）で明確に述べています。【2021/9/3追加】>
下の図で説明しましょう。まず、労賃に相当する価値ｖを生産する必要労働時間の大きさは変わらず、労働日の延長（労働時間の延長）で剰余労働時間を大きくし、より大きな剰余価値ｍを生産することを「絶対的剰余価値の生産」と言います。なぜ「絶対的」かというと、労働が生産物に付け加える価値（ｖ＋ｍ）が（絶対的に）増えるからです。これに対し、労働日は不変で、つまり（ｖ＋ｍ）は不変で、新しい生産方法の採用などで労働の生産力を発展させ、必要労働時間を短縮してｖを小さくし、ｍをｖに対して相対的に大きくするのが「相対的剰余価値の生産」です。生産物に移転される不変資本ｃは大きくなろうと小さくなろうと関係ありません。
図１
ここで重要なのは、「一商品の価値は、その商品に最後の形態を与える労働の分量によって規定されているだけではなく、その商品の生産諸手段（原材料や生産設備*ykb）のなかに含まれている労働総量によっても規定される」（③p559③Ｐ５５１）ことです。つまり紡績業の変革で綿糸の価値が下がれば、綿織物業の生産物全体の価値が下がり、その使用価値を消費する労働力の価値（ｖ）もを小さくなります。ｖを小さくする、あるいは必要労働時間を小さくするのは、ある個別資本の生産方法の変革ではなく、社会的な生産方法の変革です。個別資本の生産方法の変革は、その個別資本の剰余価値は増やしても、社会的に決まる労働力の価値（ｖ）を引き下げるものではありません。【2021/7/28追加】
さて、この相対的剰余価値の生産は、「資本主義的生産様式の内在的諸法則」（③p560③Ｐ５５２）であり、当事者（資本家および労働者）の意識に直接反映するものではありませんが、当時のイギリスでは必要労働時間が減って労働者の生活必需品の価値が下がる、俗に言えば「物価」が下がると資本家はこぞって賃下げを行いました。労働組合も労働者を守る法律もなかったもとでは、「資本主義的生産様式の内在的諸法則」がそのまま現れました。
ここからはしばらく私論です。最近の先進国ではこんなむき出しの現れ方はしなくなったので、少し前まではもっとも分かりにくい経済学的事実でした。つまり、これまで生産性の向上があってもなかなか物価も賃金も下がらないどころか、（独占価格や労働者の団結もあって）物価も賃金もむしろ常に上がる傾向にありました。ではどうやって必要労働時間を減らすのかというと、インフレです。名目賃金が上がっても、インフレで実質賃金を抑え込み、価格の高くなった生産物価値のうちの賃金相当分を相対的に減らす、これが先進国での相対的剰余価値の生産を実現する有力な方法の一つなのです。また、物価や賃金が下がらなくとも、あるいは若干上がろうとも、それを超える「経済成長」があれば必要労働時間は減ることになります。
ところが、現在の日本では違っています。日本の現在のデフレは過去にない例外的なものです。しかし、この現象は、リストラで人を減らして生産性を無理やり高めたり、あるいは利潤を求めて生産性の悪い分野を切捨て生産性の高い分野に資本が移動することで、必要労働時間が短縮され、それがそのまま賃金と物価の下落として現れているものなのです。こうして日本経済全体が、「価格破壊」と「雇用破壊」の悪循環の道（デフレ・スパイラル）に落ち込みつつあるのです。これはまるでマルクスが研究した１８世紀末から１９世紀はじめのイギリス、労働組合もない、労働者を守る法律もない、言わば「ルールなき資本主義」と同じです。労働者の生活と権利を守ることは、日本経済のまともな発展に必要な、正義のたたかいなのです。
さて、本論に戻りましょう。ある資本家だけが労働の生産力を２倍にし、一つひとつの商品に含まれる労働を２／３（不変資本部分があるので１／２にはならない）にしたとしても、その商品の社会的必要労働は変化せず、価値は今までどおりで、今までと同じ価格で（現実的には市場の拡大をめざし若干安く）販売できますので「ぼろもうけ」ができるのです。この「ぼろもうけ」を特別剰余価値と呼びます。しかしいずれ、その新しい生産方法が普及してしまうか、あるいは他の資本家たちが別の生産方法を採用して社会的必要労働が減少して商品価値が下がれば、販売価格も下落し、特別剰余価値も失われます。（③p561～p564③Ｐ５５２～５５６）こうして、市場の拡大と特別剰余価値の取得をめざして、資本家同士の絶え間のない競争が続きます。（逆に生産力の向上に後れをとれば、資本家自身の没落につながり、競争が、資本家に生産力向上、すなわち相対的剰余価値の生産を強制します。【2021/9/23追加】）
ではどのくらいの特別剰余価値が得られるか、マルクスの例（③p561～p562③Ｐ５５２～Ｐ５５４）を図で表すと下図２のようになります。
実際には資本家は販路を確保するために、すなわち他の資本家の同じ商品を押しのけるために、社会的な価値1個１シリング＝12ペンスではなく10ペンスで売る話をマルクスはします。つまり近代的資本家は商品を安く売って儲けるのです。（③p562③Ｐ５５４）【2021/7/30追加】
【以下2021/8/1追加】ここは単純な話なのですが、マルクスは労働の生産力が元のままの状態では１日１２個の製品を生産し、１２時間労働の日価値６シリングのうち、必要労働は１０時間で５シリング、剰余労働は２時間で１シリングとし、労働の生産力が２倍になって日に２４個の製品を性亜sンするようになったという前提で、矢継ぎ早に２つの話をします。
１つ目は不変資本ｃ、可変資本ｖ、剰余価値ｍをシーニア風に生産された商品の量で表します。不変資本価値は１２シリングだから、販売価格合計２０シリングである商品２４個の２０分の１２＝１４．４個の商品で補填される。必要労働時間（可変資本価値＝労働力の価値＝賃金に相当）は５シリングだから販売価格合計２０シリングである２４個の２０分の５＝６．０個で表される。剰余労働時間（剰余価値を生産する時間）は剰余価値が残りの３．６個の商品で表される。（③p563③Ｐ５５５）これを図にすると
図３
必要労働時間と剰余労働時間の比率は、以前は5対1だったがいまや5対3になります。「同じ結果は、次のようにしても得られる」と今度は不変資本ｃ、可変資本ｖ、剰余価値ｍを労働時間に換算します。すなわち
図４
元の生産力では図２の（ｖ＋ｍ）をｖとｍ分解して下図のようでしたから、商品個数の比較と同じように、必要労働時間と剰余労働時間の比は5対1になります。
図５
この生産力が元のままの状態をシーニア風に生産された商品の量で表すと図６のようになります。【2022/4/16追加】
図６
順序が錯綜していいて超わかりにくくなってています。話の展開通りの順序は図５、図６、図４、図３です。【2022/4/16追加】
【以上2021/8/1追加】企業の「ぼろもうけ」について：中嶋誠さんとシャープ㈱の対話
特別剰余価値についてのおもしろい話しがあります。１９９８年の参議院選挙に向けて、千葉選挙区候補者の中嶋誠さんは、「国民との対話」ということで、大企業の幹部との対話もすすめていました。ある日、中嶋誠さんは幕張にあるシャープ(株)の東京支社を訪問し、総務部長さんと懇談しました。その懇談のなかで、総務部長さんは「共産党は大企業のことをどう考えているのか」という疑問が出されました。中嶋さんは「大企業は大きな生産をになっているという重要な役割は認めます。だからこそ社会的責任も果たして欲しいんです。シャープさんも大阪方面ではサービス残業をやらせているそうじゃないですか」と指摘すると、総務部長さんは「いや～、あれはちゃんと是正していますよ」と応対しました。
さらに話しはすすんで、総務部長さん「わが社は液晶ディスプレイの開発競争に打ち勝ちましてね、だいぶもうけさせていただいて、（家電分野の不振から）立ち直ることができました」。中嶋誠さん「ぼろもうけだったわけですね、いいんですよ、うんともうけしてください」、総務部長さん「え！？、いいんですか」。この対話を聞いて党側の案内役の人が「中嶋さん、やっぱりぼろもうけはまずいんじゃないの」とさえぎりましたが「ええ、いいんですよ、その代わり、払うもの（税金）はちゃんと払ってくださいよ、あとは労働者との問題ですが…」といった具合でした。
ここには、日本共産党が多国籍企業の横暴を厳しく批判しながらも、経済のグローバル化そのものには反対せず、逆に、マルクスが明らかにしたように、経済の国際化は社会主義への条件を整えるという評価をしていることと同じ内容があります。つまり、国民の不安に付け込んだ売り惜しみによる価格つり上げのような（１９７０年代に実際にあった）、社会的道義（モラル）に反することをしないでもぼろもうけができることは、経済学上もありうるわけです。剰余価値の搾取を許さない社会主義の理念からするとこんな対話はできません。しかし、日本共産党の綱領路線は当面「資本主義の枠内での民主的改革」ですから、こんな会話も成立するのです。資本の横暴には真正面からたたかう日本共産党ですが、資本主義の没落の向こうに社会主義を見るのではなく、資本主義の最高の発展の先に社会主義の展望を見る、これは日本共産党がマルクスから受け継いだ「科学の目」です。
現在の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは経済のグローバル化そのものを問い直しています。当時のykbdataは不破氏の論に疑問を感じながらも深慮せず援用してしまいました。食糧の自給自足と地産地消、エレルギーの自給自足と地産地消が進むもとで、経済のグローバル化、サプライチェーンのグローバル化そのものも経済の国際的な民主主義からも再検討（否定ではありません）されるべきです。【2021/8/3追加】
次回は「第１１章協業」、「第１２章分業とマニュファクチュア」、「第１３章機械設備と大工業」と、生産方法の絶え間なし改善で、相対的剰余価値の一般的取得、あわよくば特別剰余価値を取得しようする資本の飽くなき運動のあと追います。
2002年6月13日 ykbdata
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