＃０１０：労働日
第８章労働日は「第三篇 絶対的剰余価値の生産」の中の一つの章ですが、その長さにおいてもその内容においても、一つの独立した著作のようです。これにはふたつの理由があります。
ひとつはマルクスの病気です。1866年ごろ、マルクスは「資本論」第一部の最終原稿を執筆中に持病が悪化し、理論的な部分が書けなくなったため、「61～63年草稿」を書き始める前に読んで改めて感銘を受けたエンゲルスの「イギリスにおける労働者階級の状態」（ライプツィヒ、1845年）について、その続編を「資本論」に取り入れることにしました。本来ならばエンゲルスがその続編を書く道義的権利あるいは道義的義務があり、マルクス自身もエンゲルスにその執筆をすすめていたのですが、本論が書けなくなった体調のもとで自分が書いてしまったことについては、マルクスは少々バツが悪そうに言い訳をエンゲルスに書き送っています。（マルクスからエンゲルスへ、1866年2月10日、全集31p145）
エンゲルスは労働者街を歩いて回って見聞きし、きわめて生々しい表現となっていますが、マルクスは「青書」などのからの引用が多く、「文献研究」の傾向が強くなっています。【2022/3/11追加】
もう一つは、「資本論」をただの理論書にとどめず、その理論を歴史の事実をもって生きいきと裏付けるという意図があったと思います。「資本論」は強固な論理性とともに、リアルな現実の描写で資本を告発していますが、この告発の手法はエンゲルスが「イギリスにおける労働者階級の状態」で展開した方法です。労働者の生活を実際に見聞して書かれた工場監督官の報告書など、労働者の悲惨な労働と生活の実態を隠そうとするイギリスのブルジョア政府自身の公式文書に掲載された証言や統計資料で裏付けるやり方、マルクスはこれを「対人立証」と言いますが、この方法はマルクスがエンゲルスから学んだものです。
さて、中身ですが、まず剰余価値の搾取は何も資本主義特有のものではありません。しかし、奴隷制社会でも封建制社会でも、資本主義に比べれば剰余価値の搾取の程度は大きくありませんでした。なぜなら、基本的に自給自足の経済であり、みずから消費するための生産が主で、商品交換の分野でも交換価値より使用価値が優位を占めていて、売るために生産はむしろ例外だったからです。
資本主義以前でも、貨幣そのものの獲得をめざす金･銀鉱山では過度労働、犯罪者などに死ぬまで過度労働を強制することは、ヨーロッパでも日本でも広範にありました。（②p406②Ｐ４００）
ところが、資本主義的生産様式は、使用価値ではなく価値の獲得のために、すなわち売るために生産するのがほとんどすべてですから、同じ剰余価値の搾取でも、とどまるところを知らないのが一般的になります。
第1節 労働日の諸限界 ではマルクスはこれを「資本は唯一の生活本能を、すなわち自己を増殖し、剰余価値を創造し、その不変部分である生産諸手段（過去の労働＝死んだ労働が凝固している*ykb2021/7/15）で、できる限り大きな量の剰余労働を吸収しようとする本能を、持っている。資本とは、生きた労働を吸収することによってのみ吸血鬼のように活気づき、しかもそれをより多く吸収すればするほどますます活気づく、死んだ労働である」（②p401②Ｐ３９５）と、はげしい言葉で告発しています。資本家は限りなく搾取を強めようと労働日を労働者の生理的限界、あるいは社会的限界まで延長しようとし、労働者はこれに抵抗しますので、労働日をめぐる激しい抗争の歴史が現れます。（②p405②Ｐ３９９）
第２節 剰余労働に対する渇望。工場主とボヤール 資本主義的生産様式では、前回学んだように、剰余労働と必要労働は互いに融合し合い、剰余価値搾取の実感がはっきりつかめません。（②p408②Ｐ４０２）しかし、資本主義以前の剰余価値搾取は非常にハッキリした形で行われます。日本でも農民から年貢として生産物の半分以上を取り上げることもめずらしくありませんでした。
このように生産物の強制取り上げによる剰余価値の搾取のほかに、ヨーロッパのドナウ地方の農民は、自分の農地で自分のための労働のほかに、王侯貴族（ボヤール）の農地で王侯貴族のために夫役労働するという形で搾取されていました。マルクスは、この方法が（目に見えるかどうかという形態は違うが【2022/2/14追加】）労働者の搾取の仕方に似ているとして着目し、剰余価値への渇望は資本家にあっては労働日の延長という熱望として表れ、ボヤールには直接的に夫役日数追加の追求となってあらわれるとしています。（②p408～409②Ｐ４０１～Ｐ４０２）
次の「こういう事情の所では、夫役労働が農奴制から発生したことはまれであり、むしろたいていは、逆に、農奴制が夫役労働から発生した。ルーマニア諸州ではそうであった」という表現は、またヘーゲル風的言い回しです。
これは何を意味するかというと、まだ共同体社会が残っていたルーマニア諸州では、農奴制が崩壊したイギリスに形態的には似ていて、農民は私的所有地と共有地で労働していたが、のちの王侯貴族（ボヤール）が簒奪したこの共有地での夫役労働が農奴諸関係を発展させた、ということです。（②p409～p410②Ｐ４０２～Ｐ４０３）
p414（Ｐ４０７）からは、当時のイギリスの各産業部門の労働時間について、イギリス政府の公式文書からとりあげています。当時、1850年の工場法の10時間労働日が適用されていた工場（紡績、織物など）でも、いろんな手を使って5分でも10分でも労働日を延長しようとする、資本家の悪知恵が紹介されています。
第3節 搾取の法的制限のないイギリスの産業諸部門 では、この工場法が適用されていない産業部門、レース製造業（②p422～②Ｐ４１５～）、製陶業（②p423～②Ｐ４１６～）、マッチ製造業（②p426～②Ｐ４２０～）、壁紙工場（②p427～②Ｐ４２１～）、製パン業（②p430～②Ｐ４２４～）での過酷な労働、成人男子で18時間を越える労働、そして特に、読んでいて胸が苦しくなるような、ときには1日15時間にもおよぶ児童労働！を告発しています。この節の最後（②p442～②Ｐ４３５～）には、青書（政府公式文書）ではなくロンドンの日刊紙の記事から、婦人服仕立女工と鍛冶工の過労死について紹介しています。
ここで製パン業にかかわる２つのことを指摘しておきたいと思います。１つは②p436冒頭②Ｐ４２９中頃の「パンの不純物混和とパンを正常価格よりも安く販売する製パン業者階級の形成とは、イギリスでは、18世紀のはじめ以来、この営業の同職組合的性格が衰微し、資本家が製粉業者または麦粉問屋の姿で名目的な製パン親方の背後に登場するとともに、発展した。」とわどういうことかというと、安売りと不純物混和を進める資本家は、親方たちに嫌われて抑圧されていたので、最初から製パン業者として登場したのではなく、製粉業者や麦粉問屋の姿でこっそり登場し、同職組合制度の衰退とともに頭角を現した、ということです。同職組合制度が資本家の台頭を抑えていたという記述は、九章に出てきます。
もう１つは、製パン職人の寿命が短いほど、激しい搾取にも関わらず、「製パン営業はいつも就職希望者で満ちあふれている。ロンドンへのこれらの「労働力」の供給源はスコットランド、イングランドの西部農業地域、および－－ドイツである」と述べているが、なぜ「労働力」供給されるかは触れられていません。これは第七編の第24章「いわゆる本源的蓄積」で論じられています。イングランドの「囲い込み」に遅れ、19世紀に行われたスコットランドの「地所の清掃」などです。
これらの産業部門（1850年工場法の適用外）に見られる過酷で野蛮な搾取、あくなき剰余労働の吸収への資本家の渇望は、エンゲルスが「イギリスにおける労働者階級の状態」を執筆した時期には、より広範に存在しました。マルクスはエンゲルスの「イギリスにおける労働者階級の状態」を紹介した後に、「これらの諸部門（1850年工場法の適用外*ykb）では、エンゲルスによって（20年前に*ykb）描写された状態に多少とも大きな変更が外部から押しつけられることはなかった」と解説しています。（②p415②Ｐ４０８の原注四八）
第4節 は、剰余労働の吸収を24時間までに可能とする交代制につて述べています。ここでも児童や女性の深夜労働と過重労働が告発されます。(②p447②Ｐ４４０～）
第5節 は「標準労働日の確立は、資本家と労働者とのあいだの数世紀にわたる闘争の成果」（②p473②Ｐ４６６）という歴史について、まずは「14世紀なかばから17世紀末までの労働日延長の強制」を取り上げています。【2022/2/27追加】
マルクスは本題に入る前に、労働力を「食いつくす」（労働者を短命になるまで酷使する）資本家の剰余価値に対する渇望を、奴隷所有者が、酷使し短命になった奴隷を奴隷市場で補充するのと同じように市場で補充するまでになることを告発します。②p462～p471②Ｐ４５５～Ｐ４６４）【2022/2/27追加】
結論として「"大洪水よ、わが亡きあとに来たれ！"これがすべての資本家および資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんの顧慮も払わない。」(②p471②Ｐ４６４）という、この有名な言葉が、「カローシ」するまで働かされる、現在の日本の労働者の現実と重なって、迫力をもってせまってきます。（しかもマルクスはこれは資本家の悪意だけにもとづくものではなく、資本主義的生産様式の内在的法則の表れだと指摘します。その具体的根拠としてp472Ｐ４６５の原注（一一四）が示されています【2022/2/27追加】）
労働日をめぐっての資本家と労働者とのたたかいの歴史は、大きく２つの対立する流れを示します。ひとつは、労働者がなかなか資本家の思うように働かなかった、というよりは資本のもとで働かなくとも生きていけた時代には、ある一定時間働くように法律で強制しました。つまり、はじめは資本家のための労働日延長のたたかいでしたが、18世紀末までは、なかなか思うように働かせることができませんでした。働き手が少ないですから、当然、賃金も高目でした。
労働者を思うがままに搾取するためには、労働者の「過剰人口」を作り出し、労働者に自分の労働力の安売り合戦をさせることが必要でした。それには機械制工業、大工業が必要でした。（②p479②Ｐ４７２）
なぜ機械制工業、大工業が必要か。それは労働者の生活諸手段がほとんど機械制工業、大工業で生産され、労働の生産性の向上で雇用される労働者数は常に減る傾向にあり、大きな不変資本を持つ資本家は、その設備の遊休を極端に嫌うので（②p360②Ｐ３５３の原注（二三）参照）いつでも労働力を調達できるように、農村からの流入も含め、過剰人口にしておくのです。【2021/7/16追加】
資本家の思うように働かない労働者に対し、イギリスの経済学者の一派は労働者に対して激怒し、他の一派は労働者を擁護しました。その論争が②p480～p484②Ｐ４７２～Ｐ４７７で紹介されていますが、工場の出現でいったんは資本の側の勝利となります。【2022/2/27追加】
第6節 第5節で述べられているように、18世紀中ごろまでは、労働者を思うがままに働かせるのはかなかなむずかしく、標準労働日を自然的限界の12時間まで延長するのに数世紀を要しましたが、18世紀の最後の3分の1の時期で大工業が誕生して以来、「慣行と自然、年齢と性、昼と夜」の、これまでのあらゆる制限を突破し、労働者の命と健康をかえりみない「突進」が生じ、成年男子の15時間労働、児童の12時間労働などというすざまじい搾取が出現しました。（②p487～p489②P４８０～P４８２）
エンゲルスの「イギリスにおける労働者階級の状態」では工場法以前には、最新の紡績機を導入した工場と競争するために、旧式の紡績機の工場では成人男子の18時間労働（国民文庫「イギリスにおける労働者階級の状態２」p14）など、命をすり減らす労働が強いられていましたが、それはそうするしかないように過剰人口が作り出されていて、代わりの労働者はいくらでもいて、拒否すれば餓死するか犯罪を犯すしかなかったのです。【2021/7/19追加】
19世紀に入り、労働者の抵抗と反撃が開始されます。労働者のたたかいを工場立法の歴史として表にまとめました。記述だけではわかりにくい、資本家の悪知恵が生み出した各種「リレー制度」の図解を見ながら見てください。（②p489～p521②Ｐ４８２～Ｐ５１４）
| 年代 | 規制の内容 | 規制の範囲 | 資本の抵抗・その他 |
|---|---|---|---|
| 1802-33 | 名目だけの５つの労働法 | ||
| １８３３ | 成年：１５時間 １３～１８歳：１２時間 ９～１２歳： ８時間 １８歳以下夜業禁止 |
木綿･羊毛 亜麻･絹工場 |
リレー制度:１８歳以下の２組で 成年の１５時間にあわせる。その 後複雑な「リレー」で8時間規制が 不可能に。(②p493②Ｐ４８５) |
| １８４４ | ８～１２歳：６時間半 にせ「リレー制度」規制 １８歳以上の女性：１２時間 ：夜業禁止 |
同上 | 工場の協業的性格から自然法的 に、さらに穀物法廃止に労働者 を引き込むたにも成年含めた12 時間労働定着。(46年穀物法廃止) |
| １８４７ | １３～１８歳：１０時間 すべての女性：１０時間 |
同上 | 直前の恐慌で時短口実の賃下げ。 チャーチスト運動の隆盛と失敗。 ４８年パリ６月蜂起の圧殺。 こまぎれリレー制度(p504P496) 移動リレー制度(p510Ｐ５０３) |
| １８５０ | 年少者・女性は6時～18時 ⇒リレー制度の排除 |
同上 | 53年の補強（児童も同時刻規制） その後の大工業の大発展(p520) |
| １８６０ | 50年法の適用範囲拡大 | 捺染工場 漂白工場 |
(p521Ｐ５１３～Ｐ５１４) |
| １８６１ | 同上 | レース工場 靴下工場 |
(p521Ｐ５１３～Ｐ５１４) |
| １８６３ | 同上 | 製陶工場 マッチ工場 雷管工場 弾薬工場 ： |
(p521Ｐ５１３～Ｐ５１４) |
1850年法は、1853年の補完により、その適用を受ける産業部門において、すべての労働者の労働日を規制することになります。当時の繊維産業では、紡績機や力織機の下にもぐりこんで補助作業を行う児童労働が必須であったので、児童労働の制限が成年労働者を含むすべての労働者の労働日の制限につながったのです。（②p518②Ｐ５１１）
また、成年男子労働者の代替として女性と年少者の長時間労働が、労働者全体の賃金を引き下げる役割を果たしていたので、女性と年少者の労働日の制限が、男子成年労働者の要求にもなり、「半世紀にわたる内乱」とも言われる労働日をめぐる労働者と資本家の闘争は、法律による労働日の全般的な制限という結果になります。
こうした労働日の制限による労働者の状態の改善が、イギリス大工業の驚くべき発展と「手をたずさえ」たことが誰の目にも明らかになり、労働日の制限にあらゆる悪知恵をろうして抵抗した資本家でさえ、労働日の短縮を自慢するようになります。（②p520②Ｐ５１３）
第7節 イギリスにおける、こうした労働日をめぐる闘争は大陸や新大陸にも波及し、フランスでははじめから全労働者を適用範囲とする12時間法が1848年に制定され（②p528②Ｐ５２１）、アメリカでは1866年に8時間法を要求する運動が盛り上がり(②p530②Ｐ５２２～Ｐ５２３）、後にメーデーの起源となった1886年に、8時間労働制を要求するゼネストがたたかわれます。
労働日をめぐる「半世紀にわたる内乱」を帰結としてマルクスは原注（ニ○一）で次のように工場監督官報告書から引用しています。（②p533②Ｐ５２７）
（工場法）は彼ら〔労働者たち〕を自分自身の時間の主人にすることによって、彼らがいつかおこる政治権力の獲得に向かわせる精神的エネルギーを彼らに与えた。抑えた皮肉ときわめて慎重な表現を用いて、行動監督官たちは、現在の１０時間法は、資本家をも、資本の単なる化身としての彼に特有な野蛮性からある程度開放し、彼に若干の「教養」のための時間を与えたということをほのめかしている。【2022/3/9追加】
第９章 剰余価値の率と総量では、都市のギルド（同職人組合）が資本家の登場を抑止していた、というのがたいへん興味深いところです。(②p545②Ｐ５３７）だいぶ長くなりましたが、次回は「第４篇相対的剰余価値の生産」です。
2002年のykbdataはこの章の重要性を理解できませんでした。量の多い「労働日」を消化するのがだいへんで、早く次に進みたかったこともあり、第一部四篇以降や第二部、第三部の伏線になっている剰余価値の総量を支配する法則の重要性も注目できませんでした。19年が経過しましたが、改めてこの章の重要性を感じたので、以下、最後まで補強をします。【2021//7/21追加】
剰余価値の総量を支配する法則の第一は「前貸しされる可変資本の大きさに剰余価値率を掛けたものに等しい」（②p536）ですから可変資本を減らしても剰余価値率を上げれば剰余価値の総量が増えることもあります。つまり労働者を減らしても労働日（労働時間）を延長すれば剰余価値は増やすことができます。（絶対的剰余価値の生産）（②p537②Ｐ５２９）【2021/7/22追加】
しかしこれには物理的限界があります。24時間を超えて労働日を延長することはできません。これが第二の法則です。重要なのはこの明白この上ない法則が「後で展開される（第四篇以降*ykb)はずの資本の傾向――労働者数または可変資本構成部分をできる限り縮小しようとする傾向（中略*ykb）――から生じる多くの現象を説明するために重要である」（②p538②Ｐ５３１）ことと述べ「相対的剰余価値の生産」の伏線を張ります。【2021/7/22追加】
第三の法則は剰余価値率が決まってれば（または「与えられていれば」＝一定ならば）不変資本と可変資本の構成比が異なる生産部門でも、生産される剰余価値は可変資本の大きさに正比例する。（②p539～p540②Ｐ５３２～Ｐ５３３）【2021/7/23追加】
しかし、マルクスはすぐ後に「この法則は、外観にもとづくすべての経験と明らかに矛盾している。だれでも知っているように、使用総資本の百分比構成を見た場合、相対的に多くの不変資本および少ない可変資本を使用する（性能の高い紡績機を導入して労働者を減らした*ykb）紡績業者のほうが、だからと言って、相対的に多くの可変資本および少ない不変資本を動かす製パン業者よりも手に入れる利得または剰余価値が小さいというわけではない」と述べています。これは、資本構成比の異なるこの二つの産業は剰余価値率が違うということ隠したまま謎かけをしています。訳注*1でこれ第三部第二編「利潤の平均利潤への転化」で解決されるとしていますが、マルクスの言う意味が違うのではないかと思います。私は単純に、のちに論じられる「相対的剰余価値の生産」のほのめかしだと思います。（②p541②Ｐ５３４）【2021/7/23追加
なぜなら、p543Ｐ５３６で「次の章で述べるように、この法則（剰余価値の総量は、総労働日すならち総労働時間に比例する）は、これまでに取り扱われた形態での剰余価値の生産〔絶対的剰余価値*訳注〕だけに当てはまる」と述べ、相対的剰余価値の生産では別の法則に支配されるとほのめかしていいるからです。【2021/7/23追加】
次にマルクスは貨幣が資本に転嫁するためには「一定の最小限の貨幣…が貨幣所有者…の手にあることが前提となる」と述べます。これは何かというと、結論だけ言うと、たとえば、資本家が普通の労働者のちょうど2倍の良い暮らしをし、しかも剰余価値の半分を資本に再転化するためには、彼は、労働者数と同時に、前貸し資本の最小限を8倍に増やさなければならないであろう」ということです。（②p544②Ｐ５３７）【2021/7/23追加】
つまり12時間労働日で必要労働時間が8時間の場合は1を労働力の価値すなわち可変資本価値とし不変資本価値も同等とするとC´＝1c＋1v＋0.5mの8倍のC"＝8c＋8v＋4m、8vすなわち労働者8人が必要だということです。これで4mのうち2mは1v（労働者）の2倍の暮らしに消費され、残る2mは資本に再転化（追加）できるというわけです。資本家の卵でさえ労働者の2倍だけ良い暮らしというのは非現実的で１0倍くらいでしょう。そうすると20m必要ですから40人の労働者が必要となるでしょう。
前2段に関連する史実として②p545②Ｐ５３７には大事なことが書いてあります。すなわち、「中世の同職組合制度は、個々の親方が使用してよい労働者数の最大をきわめて小さく制限することによって、手工業親方の資本家への転化を強制的に食い止めようとした」と。剰余価値の渇望と奢侈欲で、古い制度を壊そうとする者を抑えていたのです。
p545Ｐ５３７の量から質への転化の法則の話はこじつけのような気がします。
同ページの原注（二〇五）に出てくるアーバスナットなる人物は、「本源的蓄積」の章で出てくる、農民を農村から追い出し無理やり労働者にした「囲い込み」の擁護者です。
その後、資本に転化できる最低限の貨幣量は資本主義の発展段階と生産の高度化で大きく変わるよとつけ加えます。（②p547②Ｐ５３９）【2021/7/23追加】
p548Ｐ５４０にはマルクス特有の縦線（実際には横線）が出てきますが、これはマルクスの思考の区切りを示す「しきり線」ので、ここでいったん締めてこれから別の話に移るよというサインです。これから何度となく出てきます。【2021/7/23追加】
その「しきり」は、ここでは人格化された資本家の性向をまとめています。自分でも働く親方から労働者の指揮監督に専念するようになる、溶鉱炉など高額な生産諸手段を遊休させることが「純損失」と意識するとか述べ、「生産諸手段が労働者を…消費する」とか「死んだ労働と生きた労働の関係…の逆転」とか哲学的な表現でこの章を終わっています。【2021/7/23追加】
--「新版『資本論』オンラインゼミ」第4回目はここまでです2002年6月10日 ykbdata
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