◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆

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＃０４７：第三篇　第２１章　蓄積と拡大再生産（その２）

　第２節　大部門�Uにおける蓄積　�Fp816〜p822
　第1節は大部門�T（生産諸手段生産部門）内の蓄積でしたが、今度は大部門�U（消費諸手段生産部門）内での蓄積を論じます。

�Fp816〜p818　「われわれがこれまで…」〜「そこで、この場合には…」
　マルクスが最初に言っているのは、�Tが蓄積をすると�Uの商品が売れ残るので、過剰生産となり単純再生産もさまたげると、困難をあげているのです。

単純再生産の延長上では･･･

　その後も繰り返して、拡大再生産表式へのヒントとして次のようにまとめています。

�Fp817末尾〜p818の1行目
　すなわち、大生産部門�Tでの仮想的追加貨幣資本の形成（したがって�Uの立場から見れば過少消費）。大部門�Uでの、生産資本に再転化されえない（�Tの生産諸手段と交換できない*ykb）商品在庫の固定（したがって�Uでの相対的過剰生産）。�Tでの過剰な貨幣資本と�Uでの再生産における（不変資本の*ykb）不足。

�Fp818　「この点の論述はこれだけに…」
　ここで、「蓄積は（見かけ上�Tの*ykb）消費を犠牲にして行われるというのは…資本主義的生産の本質に矛盾する一つの幻想である」とは、拡大再生産の動機は資本家の「節欲」ではなく、より大きな剰余価値の獲得だと、シーニアの「節欲説」などの資本家弁護論を批判します。

�Fp818〜p822　「次に、われわれは…」〜「この困難を･･･」〜「これにたいして…」
　マルクスは分かっていて「蓄積が消費を犠牲にして行われる」ことは資本主義的生産ではありえないこと（「幻想」、p818）、「この困難を避けるため」には（商人資本はまだ登場していないのだから）�Tでも�Uでも商品在庫を恒常的に持つことになり�Uの商品在庫は翌年度の消費に回る（p820）、（商品の一部が売れなくても生産を続行する貨幣準備は第1節で明らかにしていると暗に述べている、p821）と第3節へのヒントを並べ立てます。

　第３節　表式による蓄積の叙述　�Fp822〜p857

�Fp822　「さて、われわれは･･･」
　ここからいよいよ表式による第１回目の拡大再生産のシミュレーションです。結果的に、マルクスはここでは解決ににたどり着きません。（訳注*では第3回目となっていますが、ykbdataの理解によれば、これまでは準備で、ここからが第1回目です。）スタート（拡大再生産そのものではない）として次の表式を示します。
表式ａ）�T　　４０００ｃ　＋　１０００ｖ　＋　１０００ｍ　＝　６０００
　　　　�U　　１５００ｃ　＋　　３７６ｖ　＋　　３７６ｍ　＝　２２５２
正しくは　　　　　　　　　　　　３７５ｖ　　　　３７５ｍ　　　２２５０

　エンゲルスの指摘のように、マルクスは算術に弱いので、１８８の５分の１を４８とするなど（p825末の*〔　〕）、しょっちゅう計算を間違えます。それを商売をやっていたエンゲルスが、商人的正確さで訂正して回ります。しかし、ykbdataはもっと詳しく計算します。

�Fp823〜p824　「まず第一に…」〜「このようなものとすれば…」
　表式ａは、�Uで商品が売れ残らず追加貨幣資本が残り、これで�Tに残った追加不変資本が買えるようにと、表式�T、すなわち
　　　　�T　　４０００ｃ＋１０００ｖ＋１０００ｍ＝６０００
　　　　�U　　２０００ｃ＋　５００ｖ＋　５００ｍ＝３０００
という均衡条件を少し崩して、�Tmの半分の500が消費されずに蓄積されるので、�Ucは�T（1000ｖ＋500ｍ）と交換されるので�Uは2000ｃではなく1500ｃとしてみたということです。
　表式ｂは、年総生産物価値が表式ａと同じ8252ですが、単純再生産が連続する表式です。説明はいらないでしょう。

�Fp824〜p825　「さて、表式ａをもっと詳しく…」〜「したがって、ここでまだ…」
　大部門�Tでも大部門�Uでも蓄積率を５０％（剰余価値の半分を資本に追加）とすると
　　　　�Tでは４００が不変資本に、１００が可変資本に追加される
同様に　�Uでは１４０が不変資本に、　４８が可変資本に追加される
正しくは　　　１５０　　　　　　　　３７．５　　合計１８７．５（３７５÷２）
としたいのですが…。

�Fp826〜p827　「われわれはここで…」〜「まず、３７６�Uｖがある…」
　マルクスは突然、「われわれはここで一つの新しい問題にぶつかる」、�Uの追加資本１４０（生活諸手段の形態にあり、正しくは１５０）が貨幣化できないと言い出します。たしかに１４０（正しくは１５０）の消費諸手段が�Tに売れないのです。

表式ａ）�T　　４０００ｃ　＋　１０００ｖ　＋　１０００ｍ　＝　６０００
　　　　�U　　１５００ｃ　＋　　３７６ｖ　＋　　３７６ｍ　＝　２２５２
正しくは　　　　　　　　　　　　３７５ｖ　　　　３７５ｍ　　　２２５０
　上の表式ａを見ながら詳しく計算しましょう。
　�Uには�T（１０００ｖ＋５００ｍ）の交換の後に２２５０−１５００＝７５０の消費諸手段しか残っていない。
　さらにここから�Uの労働者の労賃分�Uｖ３７５が消費され、残りの消費諸手段は７５０−３７５＝３７５だけとなります。
　さらに、�Uの資本家の剰余価値�Uｍ３７５の半分の１８７．５が資本家によって消費され、最終的に、３７５−１８７．５＝１８７．５の消費諸手段が売れ残ります。
　同じ生産年度では、�Uは拡大再生産のための追加不変資本１５０も追加可変資本３７．５の現金化もできません。（【2024/7/11追加】）

�Fp827〜p830　「しかし待て！…」〜「仮想的追加貨幣資本の形成のために･･･」
　マルクスの貨幣の動き（よく「貨幣による媒介」と言います）に対するこだわりはこれまでも行き過ぎというくらいでしたが、私はここではこの表式ではうまくいかないと判断して、口実を付けて「自爆」しているのだと思います。
　ykbdataがマルクスがなぜ表式ａ）でわざと「自爆」したと思うかというと、（一）賃下げ（p827〜p828）および（二）トラックシステムなど詐欺的な手口（p827〜p828）は、二つとも等価交換という全体の考察の前提を壊すという理由で、陳腐すぎるからです。さらに、同じ第八草稿なのに、前回はうまくいかなかったが今回はこう修正してという説明なしに、その次にすぐ正解（第1例）が出てくるからです。
　マルクスが、これはうまく行かないなと思ったであろう本当の理由は、ykbdataの憶測では次の赤字の部分で、実は拡大再生産表式のカギの１つを握っています。（数字はエンゲルスが訂正した数字を使っています）

　

　�Tv＋�Tm/2の１５００と、�Uｖ＋�Um/2の５６４を消費しても１８８の商品が売れ残ります。�Uの３８（�U自身の労働者が翌年消費する商品在庫）を度外視してもと１５０（上表式の「�Uの労働者が翌年消費する商品在庫１００＋消費手段が５０余る！＝１５０）が売れません。
　ykbdataの考えでは、この３８＋１００＝１３８が翌生産年のための商品在庫をなすことは、すでにマルクスは論及していますが、５０が完全に売れ残ります。これがマルクスが解決しなければならないと感じた問題だと思います。この辺のykbdataの理解はどの研究者とも違います。

この段落はまだ仮説です。（2024/7/11）
　これまで、第1節では大部門�Tの内部でのＢグループによる�T内のＡグループへの一方的販売で、�TのＢに仮想的追加貨幣資本が、�TのＡには仮想的追加不変資本が残ります。第2節の冒頭では部門�TのＢによる部門�UのＡへの一方的販売で、�TのＢに仮想的追加貨幣資本が、�UのＡには仮想的追加不変資本が残ると論を進めましたが、�Tと�Uの交換は、単純再生産ですでに詳しく論じたので簡単に済ませ、仕切り線の後に部門�Uの内部での蓄積を詳しく論じます。
　さらにマルクスは、第3節の表式ａで失敗して見せることで、これまで論及してきたように前年度の�Tでも過剰生産による、生産諸手段の翌年度への商品在庫がやっぱり必要だ、と言うことを暗示しているのです。これを不破さんは「マルクスの拡大再生産論への初回の挑戦の行き詰まり」と捉えていますが、ykbdataはそう思いません。

�Fp830　「もう一つの方法は…」
　ここは現時点では保留します。

　１　第一例　�F831〜p841
　マルクスはこれまでに、�Tの過少消費と�Uの商品在庫について考察していましたから、この難問を難なく解決します。大部門�Uの資本構成と蓄積率を低くして余りが出なくしたのです。つまり、�Uも�Tと同じ蓄積率という前提をやめ、�Tの蓄積の結果に�Uの蓄積率を合わせたのです。これで第一例は問題を見事に解決します。これで単純再生産から拡大再生産に移行できます。ここまで一気に進むのは、マルクスは知識だけでなく、インスピレーションが鋭い！やはり天才です。次ykbdataの解説付き第一例の表式を表式ａと見くらべてください。

↓
�Uの資本構成を4:1から2:1に、蓄積率も¹/₂（50％）から¹/₅（20％）に低くした
↓

　上記のシミュレーションを５年目までエクセルで計算したのが次の表です。細かいところでは計算間違いもありますが、p841のマルクスの再生産進行表とピッタリ一致します。

　しかし、なぜマルクスは翌年度の労働者向けの商品在庫（消費諸手段）などということを考え出したのだろう。（p833でも、「第一例」以前のp820でも触れている）つじつま合わせだろうかなどと、考えに考え、次の結論に達しました。

　「資本論」に登場する労働者はその日暮らしで毎日のように市場に買い物に行きます。資本家のように消費諸手段の備蓄を持てません。だから生産の結果としての消費諸手段では間に合わないのです。つまり、可変資本の翌年度への追加に相当する消費諸手段は、翌年度の生産の結果では間に合わないのです。
　翌年度に労働者が消費する追加商品は「商品在庫」として事前に確保しておかなければ、労働者は労働力の繰り返しの回復ができないのです。素材的にはジャガイモやタバコ、火酒（「イギリスにおける労働者階級の状態」に出てきます。労働者用だからブランデーではなくジンやバーボンでしょう）が考えられます。
「そう言えば…」と、ケネーの経済表の理解のために、前生産年度の結果としての本生産年度のスタート、本生産年度の流通、そして本生産年度の結果としての翌生産年度への備え、と時系列的にとらえたykbdataの経済表を思い出しました。たぶん、マルクスもケネーの経済表を思い出していたでしょう。

　直感的にはこうなのですが、価値補填の原則から考えるても当然の事態です。単純再生産では�Tの資本家が手に入れる剰余価値はすべて消費諸手段に支出されますが、ここでは�Tの剰余価値１０００ｍのうち半分の５００を消費しないで、不変資本に４００を、可変資本に１００を追加します。この追加不変資本４００は�Tの内部で現物形態で補填されます。つまり�Tは�Tのために単純再生産を続けるより生産諸手段を４００多く�Tに振り向けます。

　一方、�Tの追加可変資本１００は�Uから消費諸手段の現物形態で補填（翌年度労働者に消費）されるしかありません。同様に�Uの資本家の追加可変資本５０も�Uから消費諸手段の現物形態で補填（翌年度労働者に消費）されます。�Uの追加不変資本１００はもちろん�Tから現物補填されます。

　なお、社会的生産年を1年としましたが、例えば食用の鶏の卵のように、商品によっては回転が速く、ごく短い生産期間となっても事態は変わりません。（この場合、鶏は固定資本の扱いになります）

　以上がykbdata流のケネー風の拡大再生産論ですが、ここでマルクスの「蒙昧遊戯」に少し付き合いましょう。

�Fp832　（�Tの単純再生産からの拡大再生産1年目への蓄積*ykb）
　５００�Tｍのうち４００が不変資本に、１００は可変資本に転化する･･･その場合は、�Tでは次のようになる
　４４００ｃ＋１０００ｖ＋１００ｍ（この100mは100vに転化･･･）

　これは翌生産年に向けて準備されるということで、直ちに機能するものではありません。こうした時系列的説明がないのが難解になっている要因の一つです。

�Fp832（�Uの単純再生産からの拡大再生産1年目への蓄積*ykb）
　�Uの側では、蓄積の目的で�Tから１００ｍ（生産諸手段として存在する）を買い、これがいまや�Uの追加不変資本を形成するが、一方、�Uが支払う貨幣１００は、�Tの追加可変資本の貨幣形態に転化される。そこで、�Tにとっては資本は、４４００ｃ＋１１００ｖ（後者は貨幣で）＝５５００となる。

　４４００ｃ＋１１００ｍ＝５５００は翌生産年（拡大再生産１年目）に向けた�Tの資本です。これも時系列的に混乱させられます。ykbdataの第一例の解説のように、�Tの翌年に向けての追加可変資本１００に相当する、�Uのための翌年に向けての追加の生産諸手段１００（６０００−４４００−１５００＝１００）が残るので、�Uはこの１００を翌年（拡大再生産１年目）に向けた追加不変資本にするしかないのです。

　なお、マルクスが、�Tが翌年の追加可変資本に回した１００ｍが、�Uの翌年に向けて追加した不変資本１００ｃを貨幣化する、と言っているのは誤りのように思われます。�Tの１００ｍは本生産年の結果であり、�Uが翌生産年に向けたて�Tから１００ｃを買うための貨幣化には間に合いません。１年目の１００ｍと１００ｃの一致は偶然（単純再生産から拡大再生産に移行するときの特殊な組み合わせ）で、２年目は１１０ｍと１６０ｃ、３年目が１２１ｍと１７６ｃと一致しなくなります。仮想貨幣資本についてはすでにその源泉は�Tについても�Uについても蓄蔵貨幣だと考察済みです。

�Fp832（�Uの単純再生産からの拡大再生産1年目への蓄積の続き*ykb）
　いまや�Uが不変資本として所有するのは、１６００ｃである。一方、�Uはこれを動作させるために、さらに貨幣で５０ｖを新たにな労働力の購入のための追加しなければならないのであり、その結果、�Uの可変資本は７５０から８００に増大する。

　これは１６００の不変資本を機能させるために５０追加可変資本が必要であり、この貨幣は�Uの資本家の「節欲」、つまり�Tｍ７５０のうち５０が消費に支出されず回される、という事を言っています。それを続いて次のように説明しています。

�Fp832
　�Uの不変資本と可変資本とのこの拡張の合計１５０は、�Uの剰余価値から賄われる。したがって７５０�Uｍのうち６００ｍだけが�Uの資本家たちの消費元本として残り、彼らの生産物はいまや次のように配分される
　�U　１６００ｃ＋８００ｖ＋６００ｍ（消費元本）＝３０００

　しかしこれは翌生産年に向けて資本が用意されるということで、６００ｍの消費は本生産年のこと、１６００ｃと８００ｖは翌生産年に機能するのです。この辺の説明抜きの叙述になっています。数字のツジツマはあっているのでふんふんと読み通してしまいがちですが、その経済学的意味と資本の時系列的な運動も考えるべきではないでしょうか。

�Fp833
　消費諸手段として生産された１５０ｍここで（１００ｃ＋５０ｍ）�Uに転換されたは、その全部が現物形態で労働者たちの消費にはいり込む。すなわち、右に（上に*ykb）説明した通り、１００は、�Tの労働者たち（１００�Tｖ）によって消費され、５０は�Uの労働者たち（５０�Uｖ）によって翌年度に消費される。（赤い曲線が示す*ykb）

　つまり、１５０ｍが１００ｃ＋５０ｍに転換されるのは翌生産年に向けて本生産年末までにで、それが労働者の消費にはいり込むのは翌生産年のことです。続いて

　�Uここではその総生産物が蓄積に必要な形態で準備されるでは、実際には、剰余価値のうちまえより１５０（エンゲルスの指摘の通り１００は誤り*ykb）だけ大きい部分が必要（下線は本文では傍点、労働者用だから奢侈的ではない*ykb）消費諸手段の形態で再生産されなければならない。

　ようする本生産年に売れる（消費される）分よりも１５０だけ多く生産されなければならない、という事。なぜかというと、続いて

　拡大された規模での再生産が現実に開始されれば、�Tの可変貨幣資本１００が�Tの労働者の手を経て�Uに還流する。これにたいして、�Uは商品在庫の形で存在する１００ｍを�Tに引き渡し、同時に商品在庫での５０〔ｍ〕を�U自身の労働者階級に引き渡す。

　これも引き渡すのは翌生産年に向けてであり、翌生産年の消費増分のために�Uは商品在庫を持つという事です。その在庫ができるのも�Uでの１５０の蓄積によるものです。つまり�Uの１００ｃ追加が�Tの労働者の翌年の消費増分に対応する商品在庫となり、�Uの５０ｖ追加は�Uの労働者の翌年の消費増分に対応する商品在庫となる、という事で偶然ではなく、必然です。

�Fp833〜p835　「蓄積の目的で変更された‥‥」
　ここではいろいろ表式を並べますが、要するに翌生産年（拡大再生産１年目）の表式は
　　　�T　４４００ｃ＋１１００ｖ＋１１００ｍ＝６６００
　　　�U　１６００ｃ＋　８００ｖ＋　８００ｍ＝３２００
になるという事です。（p835）

�Fp835〜p836　「次に、�Tでは同じ比率で…」〜「しかし、�Uにおいて…」
　次は拡大再生産２年目に向け、１１００ｍのうち半分の５５０が蓄積されるが、その前に１１００ｖと５５０ｍが�Uの商品を消費するので１６００ｃとの転換だけでは５０足りないがこれは�Uｍから追加されるといいます。追加された５０ｃを機能させるために２５ｖがさらに�Uｍから追加されます。

�Fp836〜p837　「�Tでは５５０ｍが…」
　話を元に戻して、５５０ｍは４４０ｃと１１０ｖに分けられ、この１１０も結局�Uｍから汲み出される。�Uがこの分を不変資本に転化すれば�Uはさらに５５の可変資本を追加しなければならずこれも�Uｍから調達され、結局�Uは８００ｍから合わせて５０ｃ、２５ｖ、１１０ｃ、５５ｖの合わせて２４０を差し引いた５６０を消費することになり、拡大再生産２年目に向けて準備される資本構成は
　�T　(4400c+440c)+(1100v+110v)=4840c+1210v=6050
　�U　(1600c+50c+110c)+（800v+25v+55v）
　　　　　　　　　　　　　　　　 　　=1760c+ 880v=2640
となると述べています。

　これを直感的に分かりやすく経済学的意味を明確にして説明すると以下です。
　本年度（拡大再生産１年目）の�Tの資本家の消費する�Uの商品の不足分５０を�Uの資本家が自分達が消費せずに�Tの資本家に回し、余った貨幣資本を翌年（拡大再生産２年目）向けの�Uの不変資本に追加する。翌年に向けてのこの追加不変資本５０を機能させるために、�Uはさらに２５の剰余価値分の商品を消費しないで貨幣２５を確保し、その分の商品が余り翌年に向けての商品在庫となる。これは数字のつじつま合わせ臭い！

　翌年度（拡大再生産２年目）に向けての�Tの追加可変資本１１０（翌年度に消費に回る）が本年度の�Uの剰余価値から汲み出される。つまり�Uの資本家が本年"節欲″して消費しない商品１１０が来年の�Tの消費にに振り向けられ、商品在庫となる。その分�Uは余った貨幣１１０を翌年に向けて追加不変資本に回さなければならない。
　その翌年に向けての�Tの不変資本１１０を機能させるめに�Uの本年の剰余価値から可変資本５５を汲み出す。つまり�Uの資本家がさらに本年"節欲″して消費しない商品５５が余り、翌年の�Uの消費に向けての商品在庫となる。これで�Uの翌年向けの商品在庫は２５＋５５＝８０となる。

　数字のツジツマは合いますが、時系列が錯綜する表現になっています。ykbdataの解説付き表式なら簡単で直感的にも理解できます。

　マルクスの「蒙昧遊戯」へのお付き合いはこれで終わりにします。もっと付き合いたい人はご自由に。

�Fp837
　次の「事態が正常に進行するためには、�Uにおける蓄積が�Tにおけるよりも急速に遂行されなければならない」はマルクスの勘違いをエンゲルスが誤りまで発展させてしまったものと不破さんは解説しています。（「読む」�D、ｐ１４３）

　２　第二例　�Fp842〜p853
　第一例では、発展した資本主義生産としては�Uの資本の構成比が２：１で低すぎる仮定でした。第二例ではこれを修正し、�Tも�Uも資本の構成比が５：１の仮定し、�Tの資本家の蓄積率は第一例と同じ５０％でシミュレーションを開始します。

�Fp842〜p843　「こんどは…」
第二例）　�T　　５０００ｃ　＋　１０００ｖ　＋　１０００ｍ　＝　７０００
　　　　　�U　　１４３０ｃ　＋　　２８５ｖ　＋　　２８５ｍ　＝　２０００
正しくは　�U　　１４２５ｃ　＋　　２８５ｖ　＋　　２８５ｍ　＝　１９９５
　第二例では、第一例のように計算するのが精いっぱいの状態から、シミュレーションしながらあれこれに思いを巡らします。例えば、

�Fp844
　1500�T（ｖ＋1/2ｍ）と1500�Uｃとの転換は単純再生産過程の一過程であり、その限りではかたづいている。けれども、ここでなお若干の独自性蓄積する再生産の場合には1500�T（ｖ＋1/2ｍ）は�Ucだけによって補填されるのではなく、�Uｃに�Uｍの一部を加えたものによって補填されるということから生じる若干の独自性（だから余る！*ykb）が指摘されなければならない。

　これは第一例でのykbdataの説明で明かです。

�Fp844　「蓄積を前提にすれば…」
　それに続く説明は難解になっていますが、ようするに第一例の末尾でykbdataが論じたことを、余裕ができたのでやっと出してきたわけです。第一例では、「�Uは商品在庫での100ｍを�Tに引き渡し、同時に商品在庫での50〔ｍ〕を�U自身の労働者階級に引き渡す」と述べただけですが、ここでは、だから�T(ｖ+ｍ)＞�Uｃだと、拡大再生産の条件として示します。

�Fp850〜p853　「前述したように…」
　先回りして、マルクスが計算した再生産３年目まで（p852）の進行表を示します。最下位桁の数字がほんの少し違うのはマルクスの出発点の計算ミスのためです。（なぜ31が出てきたか？）

�Fp845〜p848　「ついてに指摘しておこう…」〜例の仕切り線
　突然、次のまで雑誌「ザ・ネイション」の話になります。マルクスはちょっと頭の休憩を取っているだけで、ここは読み飛ばしてもいいです。内容を一言で言えば、資本家たちは、扇動家（マルクス達）は労働時間の短縮を要求するだけで、労働者の精神的道徳的改善を妨げていると言うが、労働時間の短縮こそ労働者の精神的道徳的改善につながるんだと言いたいのだと思います。でも皮肉だけで終わってます。

�Fp848〜p850　仕切り線から仕切り線まで
　例の縦線（草稿では横線）のあとも

�Fp848
　このように、�Tが�Uの追加不変資本（現物形態＝生産諸手段*ykb）を自分の（�Tの*ykb）剰余生産物から提供しなければならないように、それと同じ意味で、�Uは、�Tのために追加可変資本（の現物形態＝消費諸手段*ykb）を提供する。

と、「ザ・ネイションズ」の前に論じていたことの繰り返しで、拡大再生産がスムーズに進む条件を明示しようとしますが、うまくいきません。不破さんが整理して（「読む」�Dｐ１４６）にまとめたものをykbdataが数式にしたのが次です。
　　　　�T（ｖ＋ｍ）−�T�凾メ∞Uｃ＋�U�凾メ@（�凾モﾍ追加不変資本）
　これに第一例の拡大再生産１年目の数字を当てはめると
　　　　　２２００−４４０＝１６００＋１６０＝１７６０
となります。読みながら下の表式をなぞりましょう。

　ykbdataの結論が再確認された
　これは何を意味するかというと、単純再生産ならば�Tが本生産年に生産し、翌生産年のために�U引き渡す生産諸手段は�T（ｖ＋ｍ）＝２２００の全部だが、拡大再生産ではそこから�Tの追加不変資本�T�凾メ≠S４０を差し引いた�T（ｖ＋ｍ）−�T�凾メ≠P７６０になり、これが当然、翌生産年の�Uの拡大された不変資本となるという事です。この均衡条件は、当初ykbdataが主張したように拡大再生産のカギで（下図の斜めの線がこのことを示す）、マルクスも結論として言おうとして不十分で、不破さんが整理してくれました。しかし、これ、計画経済でしかうまく行かないような均衡条件じゃないでしょうか。

　３　蓄積にあたっての�Uｃの転換　�Fp853〜p857
　見出しはエンゲルスが勝手につけたので、気にしないでください。ここでは
（１）�T（ｖ＋1/2ｍ）＝�Uｃ場合、第一例の出発表式。
（２）�T（ｖ＋1/2ｍ）＞�Uｃ場合、（１）以外。
（３）�T（ｖ＋1/2ｍ）＜�Uｃ場合、意味がないと思います。

�Fp855〜p857　「したがって…」〜「注意しておきたいのは…」
　さて最後に、これまで5割としていた�Tの蓄積率を一般化、すなわち�Tの資本家の消費をｍ／ｘとして均衡(?)条件を次のように一般化します。すなわち
　　　�T（ｖ＋ｍ／ｘ）＜�U（ｃ＋ｍ）
　この項の最後は固定的不変資本の摩滅分とその積立は正確に記述してないとのべ、俺は忘れてないよと言うわけです。

　第４節　補　遺　�Fp857〜
　ここではこれまで数字のツジツマ合わせの感のあった拡大再生産における�Tと�Uのそれぞれの蓄積（消費せずに追加貨幣資本に転化）がそれぞれにどう関連するか、端的に叙述しています。
　まず最初に、例の貨幣へのこだわりから、「�Uにとっての本源的な貨幣源泉は、�Uｃの一部と交換される金生産〔者〕�T(�Tｇ*ykb)の（ｖ＋ｍ）である」と述べ、拡大再生産のこの関係がどうなるか、叙述しています。＃０４４：第三篇２０章　単純再生産　第１２節　貨幣材料の再生産で示したykbdataの金再生産表式を見ながら、読み解きましょう。

�Fp857
　金生産者が剰余価値を積み立てるか、またそれを生産諸手段�Tに転化して自分の生産を拡張する限りでのみ、彼のｖ＋ｍは�Uにはいり込まない。他方、金生産者自身の側での貨幣の蓄積が、結局、拡大再生産に導く限りでは、金生産〔者〕の剰余価値のうち収入としては支出されない一部分が、金生産者の追加可変資本として�Uにはいり込み,そこで新たな貨幣蓄蔵の形成を促すか、または、�Tに直接にふたたび売ることなしに�Tから買うための新たな手段を与える。

　これはマルクスらしい「蒙昧遊戯」です。�Tｇの蓄積が結局は�Uの蓄積を促すが、それは�Tｇ内の資本追加ではなく、�Tｇの追加可変資本が�Tｇの労働者をつうじて�Uの商品を追加消費し、その分を�Uは不変資本に追加するよ、と言っているのだと思います。「限りでのみ」で読者を混乱させています。

�Fp857
　金生産〔者〕のこの�T（ｖ＋ｍ）に由来する貨幣のうちから、�Uのある種の生産部門が原料などとして要するにその不変資本の補填要素として必要とする金部分が差し引かれる。

　これは金の宝飾品生産のことを言っていると思います。

�FP857
　�Tと�Uとのあいだの転換において、一時的なすなわち将来の拡大再生産を目的として行われる蓄蔵貨幣形成のための要素が生じるのは、次のような場合である。

　ykbdataが補遺を読む前にも結論付けた、追加貨幣資本は翌生産年に向けたものであることが、ここで明示されています。

続いて
　�Tにとっては、�Tｍの一部分が一方的に、反対購買なしに�Uに売られ、ここで追加的不変資本�Uとして役立つ場合にだけであり、…。

　要するにこれは、�Tｍ相当の生産諸手段の一部分が�Uに売られ（第一例の拡大再生産1年目では１１０）、�Tの資本家はそれで実現した（貨幣化した）剰余価値の一部分を、�Uの消費諸手段に支出せず、�Uは�Tｍに消費してもらえなかった商品価値分を追加不変資本にせざるを得ない、と言ってます。しかしykbdataは、それでは時系列の矛盾があるので、マルクスも認めているように、�Uは売れ残った商品（同１１０）は翌生産年の�Uの労働者の消費増分に備えて商品在庫とすること、翌生産年に向けた�Uの追加的不変資本は、すでの本年に�Tが生産した生産諸手段のうちに実在すること（同６６００のうちの１７６０）を解明しています。再三出てくる下図をご覧ください。

続いて
　�Uにとっては、同じことが�Tの側で追加的可変資本のために行われる場合である。

　これは前出のことを�Uを主語にして言っているだけです。

�F858　続いて
　さらに、�Tによって収入として支出された剰余価値の一部分が、�Uｃによって補填されず、したがってそれによって�Uｍの一部分が買われ、こうして貨幣に転化される場合である。

　同じ例でいうと半分の５５０だけ支出された�Tｍと、�Tｖは合わせて１６５０の商品�Uを消費するが、�Uｃの価値が再現した商品は１６００しかなく、単純再生産ならば�Uの資本家が剰余価値を全部支出して全部消費すべきところだが、拡大再生産ではこの不足分５０が�Tｍによって消費され、その分支出しない�Uｍ５０が蓄蔵貨幣として残るという事です。これは上の表式には出ていません。前にも言ったようにツジツマ合わせの感の強い表現です。

続いて
　もし、�T（ｖ＋ｍ/ｘ）が�Uｃよりも大きければ、�Uｃは、その単純再生産のために、�Uｍのうちから�Tが消費してしまったもの（同前５０）を、�Tの商品によって補填する必要はない。

　これは何のことかよくわかりません。�Tが拡大再生産になっていれば来年自動的に来るよ、と言っていいるのでしょうか。

続いて
　問題は、�Uの資本家たちどうしの交換�Uｍの相互交換だけからなる交換の内部で、どの程度まで蓄蔵貨幣の形成が行なわれうるか、である。

　そうではなくて、直後に、第2節で述べたように、�Tｃの内部の売るだけの部分と買うだけの部分のように「�Uのさまざまな事業部門の内部でも」このようなことがあり、「余った」�Uｍは直接に可変資本に転化される、とマルクスは説明しています。

　最後の部分は、ykbdataがたびたび主張してきたとおり、追加可変資本は�Uの商品在庫を消費するという事を言っていると思います。

　再生産論を終わって
　信用を考慮すれば、これまでの困難は難なく解決します。しかし恐慌によって信用が破壊されれば、たちまちマルクスの論じた原初的なきびしい均衡条件が支配します。マルクスの再生産論は、決して資本主義的生産様式は可能だという主張ではなく、くりかえす恐慌は、資本主義的生産様式の困難性、根源的には資本と労働の対立をあらわにすると言っているのだと思います。
　拡大再生産についてのマルクスの論述を理解する（理解したつもりになる）ために1カ月以上かかりましたが、何とか突破しました。
　拡大再生産についての、マルクスの「第一例」にたどり着くまでの論の運びは、失敗も含めた試行錯誤の連続として不破さんは描いていますが、ykbdataはそうは思いません。すべてが第一例への、巧妙に準備された伏線だと思います。

第24回「新版『資本論』オンラインゼミ」はここまでです

　第二部を終って
　これで第二部を終わりますが、不破氏の「読む」も含め、多くの研究者が拡大再生産論についていろいろな論争が起きていることを取り上げています。年々資本の有機的構成が高度化する拡大再生産の表式をレーニンが解いたという話を聞くと、ykbdataも挑戦したい気がしますが、もう頭脳の働きに限界を感じていますので、無理をしないことにしましょう。
　第一部には４年を費やし、第二部には６年以上の中断をはさんで１４年、合わせて１８年以上の月日が流れました。超難解の再生産論を突破したところで、ykbdataの「資本論」の研究はしばらくお休みします。またいつの日にか。

２０２０年９月１６日 ｙｋｂｄａｔａ（2024年7月27日改定）

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