この章は、剰余価値を実現する貨幣はどこから来るのか、特に拡大再生産で生産される追加生産物価値を実現する（追加）貨幣はどこから来るのか、例によってマルクスのこだわりが続き、結局、本来第二部第三編の再生産論、第三部で展開されるべき信用制度にたびたび言及します。あまり理論的に重要なものはないと言われていますが、マルクスが何を言っているのか、読み解いていきましょう。

　最初の１０行は、まったく前章のおさらいです。２段落目は拡大再生産のことです。（�E、ｐ５０４）　頁末からの部分が新しい問題です。１５章から度外視してきた固定資本の生産機能を維持するための「修理費」の問題です。この「修理費」については第二編８章で鉄道事業を例に、見かけ上の利潤を水増しして株式配当を増やす経理操作がおもしろく論じられています。

　回転時間５週間の資本Ａは、すぐ剰余価値が実現するので、その一部を回せばいいので、この修理費を前もって用意しなくてもよいが、回転時間５０週の資本Ｂは修理費を前貸資本の一部として準備しなければならないと述べています。（ｐ５０４末行〜ｐ５０５）　実際に１年間もずっと修理しなくても済むような固定的生産資本はほとんどありません。

　ｐ５０５の最後から次頁の最初に部分は、資本Ａの前貸額は小さいので、信用の発達により他の資本家の剰余価値を銀行家Ｃを通じて資本化できるようになり、自前の資金なしで事業を開始できると言いたいらしいのですが、しかしそれは額の多少の違いだけで、資本Ｂでも同じことが言えます。

　次からは、すでに、生産規模の維持のための修理費の話しから、拡大再生産のさまざまな方法（契機）に話しが移っています。
�@機械を改良するなどして労働の生産力を高める。
�A１人で担当する機械を増やすなどして労働の強度を高める。
�B労働日を延長する。
�C新工場建設などのために剰余価値の一部分が積み立てられる。
　すなわち、ある限界内では、流動資本（原材料と労賃）を追加すれば、固定資本を大きく追加しなくても生産規模を拡大することができること。しかし、それも限界があり、いずれは新工場の建設や耕地の拡張など固定資本の大幅な追加が必要な時期が来ること。そのため、剰余価値の蓄積によって供給される大きな追加資本が必要となる。（ｐ５０６〜５０７）

　次はp５０５末からｐ５０６の最初の部分の繰り返しになりますが、この大きな追加資本は、信用の発達によって（�Cの積み立て金などを）銀行から借りることが一般的になり、銀行に剰余価値を準備金として預けた他の資本家たちは利子を受け取る。（ここから、資本は機能いしていなくても利潤を生むという神秘化が進む*ykb）　信用の発展によって拡大再生産が促進されると。その追加資本の原初的な形態は蓄蔵貨幣だが、信用が発達すると証券などにもなるが、いずれにしても将来の機能資本であり、今のところは機能していないため「権原」以外の何物でもない、というわけです。（ｐ５０７〜５０８）

　５０８ページの最後から、「権原」との関係でリカードウ派社会主義者の主張が出てきます。訳注にもあるようにウィリアム・トムスンは資本主義制度の批判ではリカードウの学説を利用し、未来社会論ではオウエンの影響を受けています。（訳注１）　トムスンは何を言っているかというと、社会の消費と比べたら資本家の蓄積なんで些細なもの、そこを問題にする（追い求める）のではなくて、いかに社会の生産諸力を発展させるかが大切で、これに対する資本家の請求権は、共同労働の社会では暴力ではなく分配の自然法則で、すぐに取り上げられるであろう、ということ。

　資本主義社会でも労働力の価値と剰余価値に正く分配されていますので、分配の問題ではないのですが、マルクスは自明の理として批判していません。その後の部分はトムスンが数字まで出して自説を展開している部分を、ときどき解説もして紹介し続けます。ところが数字の部分が難解なので少し説明しましょう。

　大ブリテンおよびアイルランド（すなわち「連合王国」）の消費量と蓄積資本の例です。原因と結果が入り組んだような数字が出てきますが、要は労働者の１年の消費は４億だから、１２億という資本の蓄積はその３年分だ。１世代４０年とするとその消費は１６０億、４０年／３年＝１６０億／１２億となる、という当たり前のことを言っているだけです。

　社会の数年間の消費に比べても小さい蓄積（土地、原料、工場、道具などの生産手段。トムスンにはＡ・スミスには見えていなかった流動的不変資本、すなわり原材料・補助材料が見えている）が「労働者たちの生産諸力を、彼ら（資本家*ykb）自身の利益になるように支配している」のはけしからん、しかも「共同労働」ではなく「不完全な、やる気を失わせる、不安定な・・・生産諸力が生産するものとの比なのである」（ｐ５１０）と鋭い洞察です。

　だから、「この一握りの蓄積（資本家の儲け*ykb）に」ばかり注意を向けるのではなく「全人類の生存を左右している・・・生産の量および分配がなによりもまず考慮の対象にされなければならない」（ｐ５１２、初めの部分のくり返しになっている）のであるとトムスンは主張していると、マルクスは紹介しています。

　さあ、やっと本論の第１節 単純再生産 です。冒頭に述べたように、この章は、資本家の収入として奢侈品などに、不生産的に消費される剰余価値を実現する貨幣はどこからやってくるのかということが主題です。たびたび出てくる棒線は、マルクスが頭に浮かんだことがらを整理せずに書き連ねたことを表わしていて、冗漫で難解な記述になっています。ここに付き合う人はあまりいないようですが、理論的にはあまり意味がなくても、例によって、何を言っているのか読み解いていきましょう。

　初めの部分は前提条件で、回転論の「貨幣資本の循環」の図解が参考になるでしょう。この図で、剰余価値ｇを実現する貨幣はどこから来るかということですが、マルクスは剰余価値が消費手段に転化できるためには、剰余価値の一部分（なぜ全部でないのか、単純再生産でも固定資本の維持・保守のために剰余価値から生産資本化する部分があるということか）がつねに貨幣で存在しなければならない、そのことをここで詳しく研究しよう、事態を単純化するために
�@金属貨幣だけが流通するものとする
�A金属貨幣の磨滅分の補填は国内の金銀生産によって行われるものとする
と述べていますが、この�Aは剰余価値の実現を外国からの金銀輸入に解消しようという逃げ口をふさぐためだと思います。（ｐ５１４）

　マルクスはまず貨幣論をおさらいして、単純再生産では貨幣総量は変わらず、奢侈品に用いられる貴金属を度外視すれば、通流による金属貨幣の摩損分が、国内の金銀生産業者から供給されるだけとしています。（ｐ５１４〜５１５）　このこと自身も第二部第一編６章ですでに扱っており、目新しいものではありません。

　その後、金生産では、労賃、流動的不変資本（原料、補助材料）、固定的不変資本（機械、工場）から剰余価値にいたるまで、金生産物で直接補填され支払われると、逐一同じことを繰り返します。この、長々と展開される、貨幣材料（金銀）生産の特殊性（ｐ５１５〜ｐ５２０）も、その基本は第二部第一編１章で触れています。強いて、金銀生産を「貨幣の循環」で図解すれば次のようになるでしょう。金生産では、生産過程から商品一般ではなく、貨幣が直接出てきます。上の図と比べてみてください。

　ｐ５１５では、拡大再生産も、貨幣通流速度の増大と貨幣の支払い手段機能の増大によって貨幣総量が変わらなくても可能だと、余計なことを言っています。
　ｐ５１６では、ある金銀鉱山の生産性が低ければ、出てくるものがＧ＋ｇではなくＧ−ｇとなることもあり（閉山の運命に）、「もしこの事態が一般的であれば」、つまり良質な鉱脈が尽きれば（ただし金銀輸入は考えない）金銀の価値が上昇し、諸商品の価格の下落するというのは、当然の話しですがマルクスのこだわりを表しています。

　ここでふと考えたのが、時代劇に出てくる金山での囚人労働です。金生産では、生産過程から剰余生価値を実現した金（貨幣）が直接出てくるので、流通過程に撹乱されず、生産過程での価値増殖機能が簡単に明らかになります。つまり、危険な生産過程で命をすりつぶすような過酷な労働が直接、富につながるのが分かるので、囚人労働が使われるのではないかと思いました。

　剰余価値を実現する貨幣はどこから来るのかという点では大事ではあるが、金銀生産の特殊性をさんざん論じたあげく、やっと剰余価値の実現についての考察がはじまります。まずは、単純再生産を前提とすれば、総生産物の流通に必要な貨幣量は不変で、流通する総生産物の価値も不変です。生産物価値が（不変部分を度外視すれば）可変資本（労賃）と剰余価値に分割されることは、必要な貨幣総量の大きさに、何の影響も与えないという、前提が出てきます。（ｐ５２１）

　「トゥックの反対者」はＧ−Ｗ−Ｇ′（流通で剰余価値が生まれる）という形態にしがみつき、「いったいどのようにして資本家は、自分が流通に投げ込む（Ｇ*ykb）よりも多くの貨幣（Ｇ′*ykb）を流通から引きあげるのか」と質問したそうです。これに対してマルクスは「問題は、剰余価値はどこからくるか？ではない。そうではなくて、剰余価値を貨幣化するための貨幣はどこからくるか？である。」と、ブルジョア経済学では、資本家が流通に投げ入れる商品資本は、彼が労働力プラス生産諸手段として流通から引きあげた生産資本より大きい価値を持っている」というのは前提だといい、それでも、剰余価値の実現のための貨幣はどこからくるのかという困難な問題に、ツゥックをはじめ、だれも答えていないというのです。（ｐ５２２）

　マルクスはこの問題に、単純再生産では総生産物の分量も価値も不変であり、その流通に必要な貨幣量も不変であり、貨幣の磨滅分だけ金銀生産から補填される、とすでに答えています。マルクスが問題にしたいのはトゥックらの逃げ口上です。「いまや、この困難を〔以下のような*エンゲルスの注〕もっともらしい逃げ口上で避けようとしてはならない。」と。（ｐ５２３）

　以下、「逃げ口上」の列挙です。
　１つ目は、貨幣形態で前貸される流動資本は、ＡがＢに売り、ＡがＣから買い、ＣはＢから買うなど、かわるがわる役立つから剰余価値が貨幣化されるというもの。これは貨幣通流を述べているだけで、その貨幣がどこから来るか答えていないとマルクスは言います。（ｐ５２３〜５２４）

　２つ目は、資本家Ａが資本家Ｂが個人的に非生産的に消費する商品を生産する、Ｂの貨幣はＡの剰余価値と不変的流動資本を貨幣化するというもの。マルクスは、Ｂは貨幣（剰余価値分）をどこで手に入れたのか？と反論します。なお、「Ｂの剰余価値の貨幣化」は「Ａの剰余価値の貨幣化」の間違いだと思います。（ｐ５２４〜５２５）

　３つ目は、可変資本を前貸し（労働者に賃金を払い）たあとそれが還流するまでの時間（前の例では資本Ａは５週間、Ｂは１年間）は、これが剰余価値の貨幣化に役立ちうるといもの。ここではマルクスは、還流するまでの時間が長ければそれだけ前貸資本の準備が必要なこと、労働者が支出して貨幣化するのは剰余価値の一部だけだと反論し、だいたい消費するのは労働者だけでなく資本家も消費するから、その貨幣はどこからくるのかと問いただします。（ｐ５２５）

　最後の４つ目は、固定資本の初期投下で大量の貨幣が流通に投げ込まれるが、還流は徐々に行われるので、これは剰余価値の貨幣化のために充分ではないかというもの。これにたいするマルクスの反論は分かりにくくなっていますが、要は個別資本ではそうかもしれないが、単純再生産のもとでは、社会的に見れは固定資本は（流通している固定資本と還流し積み立てられている固定資本準備金、そして生産過程内にある残存固定資本価値の合計は例えば５００ポンド・スターリングなどと）不変であり、ある個別資本による大量の固定資本初期投資も、それは社会全体の固定資本の還流の一部となる、ということだと思います。マルクスは固定資本として役立つ生産物を手に入れるために支出された貨幣が、すでにその生産物の剰余価値を実現している、と付け加え、ここでも、この貨幣がどこからくるかということこそが問題なんだと言います。（ｐ５２６）

　さて、ここまでしつこく論じた末に、マルクスはすでに出している結論を再度繰り返します。生産物価値に剰余価値がどれくらい含まれるかは(生産物価値を変えないし）その流通に必要な貨幣量を変えない。要するに、「問題そのものが実存しない。」さらに、流通に貨幣を投げ入れる出発点は労働者と資本家だけであり、剰余価値が地主や利子生み資本にも分配されることは、この問題には関係ないと結論付けます。（ｐ５２６〜５２８）

　次にマルクスは、「剰余価値を実現する貨幣はどこから来るのか」という問いに、もうすでに循環論で解明済みの答えをやっと出します。「どんなに逆説的に見えても、実際には、資本家階級自身が、諸商品に含まれる剰余価値の実現に役立つ貨幣を流通に投げ入れるのである。しかし、・・・資本として投げ入れるのではない。資本家階級は、それを、その階級の個人的消費のための購買手段そして支出する。」（ｐ５２９）　そして、流通から引きあげられた資本家階級の個人的消費のための生産物価値は資本家に消費されてその生産物自体とともに消滅します。

　ｐ５３０からは借地農業経営者の例ですが、最初の１年目は、彼の個人的消費のための１０００ポンド・スターリングの貨幣をもっていなければならない、しかし２年目からは、かれの生産物に含まれる剰余価値１０００が貨幣化されて還流する、回転期間が短ければ、その額が小さくなる、ということ。（〜ｐ５３１）

　個々の資本家を見れば、彼の生産する剰余価値以上に消費することもあれば逆の場合もある。しかし、資本家階級全体を見れば彼らの消費は剰余価値に一致する。だから前貸資本は消費されない。すなわち、剰余価値を実現するのは前貸資本ではない。（ｐ５３２）

　次の部分はｐ５１５〜５２０の繰り返しのようなことを言っていますが、ちょっと違うのは、「資本家階級の一部分（金生産者以外の資本家*ykb）が、彼らによって前貸しされた貨幣資本よりも（剰余価値だけ）大きい商品価値を流通に投げ入れるとすれば、資本家の他の部分（金生産者）は、彼らが金の生産のためにつねに流通から引きあげる商品価値よりも大きい（剰余価値だけ大きい）貨幣価値を流通に投げ入れる。」ので、金生産物が剰余価値を実現するかのように見えるが、そうではない。単純再生産では、金生産物は貨幣の摩損分を補填するだけだということを言っています。（ｐ５３２〜５３３）

　外国からの金輸入が剰余価値を実現するようにも見えるが、「事態は絶対に変わらない」とクギをさします。すなわち、Ａ国から５００ポンド・スターリングのリンネルをＢ国に輸出し、その代金として５００ポンド・スターリングの金を受け取り、これをリンネルの再生産と資本家の消費のために流通に投げ入れるとしたら、これは国内で行われる金生産とまったく同じだというわけです。（ｐ５３３）

　次の部分は、直前の段落で「ここではどうでもよい。」とされた「その（金生産物の*ykb）うちどれだけが諸商品の剰余価値を貨幣化し、どれだけが諸商品の他の価値構成諸部分を貨幣化するか」は「ーー不変的流動資本は度外視してーー・・・もっぱら、労賃および剰余価値が流通諸商品の価値に占める比率に依存する。」と解決し、単純再生産での剰余価値の貨幣化についての結論が再度出てきます。すなわち、「社会的剰余価値の一部分（他の一部分は金生産者たちの剰余価値*ykb）は、割合は変動するとしても、貨幣の形態で資本家のポケットにあるのであって・・・資本家階級の剰余価値の貨幣形態として、いつも資本家階級の手中にある部分は、年々生産される金の要素ではなく、以前から国内に蓄積された貨幣総量の要素である。」次いで、剰余価値の貨幣化について、金生産だけに着目すると、その貨幣を流通の中に見出すことになる、すなわち見誤ると。（ｐ５３３〜５３５）

　結論を出したあとがまたしつこい。「さて、ここで二とおりのことを述べておかなければならない。」は金生産の特殊性、すなわち、投入されるすべての前貸資本部分と剰余価値が直接に貨幣（金）で生産過程から出てくるという金生産の特殊性を述べたあと、実は今流通し、蓄蔵されている貨幣総量のみなもとも金生産物だよと、当たり前のことを言っています。ただし、外国からの金の略奪は違うのではないでしょうか。

　マルクスはさらに「そのまえになおいくつかの別の注意をしておこう。」としつこく、しつこく別の、しかもなつかしい話しを持ちだします。１８６５年の国際労働者協会でのジョン・ウェストンの見解への批判の講演のために執筆された「賃金、価格、利潤」で展開された内容です。ユアやシーニアの影響を受けていたウェストンは、労働者の賃上げ要求に反対して、労賃の一般的上昇は諸商品の価格の一般的騰貴をもたらし、結局意味がなくなると主張していました。資本論第一巻の発刊を準備していたマルクスは、剰余価値学説だけでなく第三部で展開される平均利潤率の概念も駆使して、賃金の一般的上昇は、諸商品価格の一時的動揺を経て、もとの価格に立ち戻る、変わるのは平均利潤率だけであること、さらに賃金上昇で通貨総量も変わらないことを論証しました。ここでは概略にとどまっていますが、おもしろいのは最後の部分です。賃金引上げに反対する「異論はすべて。資本家およびその経済学的追従者のこけおどしである。」と喝破したあと、「このこけおどしに口実を提供する事実が、三種類ある。」と結構難解な話しをします。これは「賃金、価格、利潤」にはなかったと思います。

　第１は、そのまま読みとれます。第２は、地域独占的あるいは部門独占的な産業で、しかも結構賃金水準が高い産業で、ストライキなどによって賃金がさらに高められて、剰余価値がゼロかあるいはマイナスになった場合は、その商品の価格は騰貴するということ。これは競争がないことが前提でないと起こり得ないことですが。

　もっとおもしろいのは、第３の、労賃の一般的な上昇で、流通貨幣量は変わらないものの、商品価格は「可変資本の比重が大きい産業部門では上がるが、その代りに、不変資本または固定資本の比重が大きい産業部門では下がる」と、これまでの論議と一見矛盾することを言っていることです。「第２」は特殊な条件のもとでしか起こらないが、これは一般的な話しです。

　この話についてｙｋｂｄａｔａは勝手に次のように考えました。ヒントはｐ５３７で平均利潤が出てきたことです。「資本論」第三部第１編では利潤、利潤率、第２編で平均利潤率が扱われますが、最終的に商品の価格Ｗ＝費用価格ｋ（ｃ＋ｖ）＋利潤Ｐで表わされ、前貸＝費用価格ｋに対する利潤Ｐの割合を利潤率としＰ´＝Ｐ／ｋ＝ｍ／（ｃ＋ｖ）で表わします。この利潤率は産業部門で違いが出るのですが、「資本家の共産主義」で平均利潤率の概念が資本家の脳髄に確立し、商品価格Ｗ＝ｋ（ｃ＋ｖ）＋ｋ（ｃ＋ｖ）×Ｐ´となり、「価値」からずれます。これは第三部にならないと出てこないのですが、マルクスは思いついて「先食い」します。

　こうしたもとで、賃金の一般的上昇によって、平均利潤率Ｐ´が低下しますが、可変資本の比重の大きい産業部門では、ｖ（賃金）の騰貴の影響の方が大きく生産価格Ｗが上昇する。ところが不変資本または固定資本（ｃ）の比重が大きい生産部門では、ｖの騰貴の影響より平均利潤率Ｐ´の下落の影響の方が大きく生産価格Ｗが下がるということではないか。ブルジョア経済学では説明のつかない経済現象について、マルクスは、第三部で取り扱う平均利潤率のことに触れずに結果だけ言っているので非常に分かりにくい。だたしこれは「資本家の共産主義」で決まる「生産価格」であって生産物の「価値」は不変です。もちろん諸商品の総価格も不変です。これはふと思い付いたことですね。だから棒線で区切られています。でもおもしろいので実例で計算してみましょう

　社会的総資本と剰余価値率、利潤率（つまり平均利潤率）が次のようであるとしよう。
　総商品価格Ｗ＝ｋ（ｃ＋ｖ）＋ｍ＝ｋ（４０００＋１０００）＋１０００＝６０００
　剰余価値率ｍ´＝ｍ／ｖ＝１０００／１０００＝１００％
　平均利潤率Ｐ´＝ｍ／ｋ＝１０００／５０００＝　２０％
　これが、労賃が５０％だけ一般的に騰貴したとすると
　総商品価値Ｗ＝ｋ（４０００＋１５００）＋５００＝６０００
　剰余価値率ｍ´＝ｍ／ｖ＝５００／１５００＝３３．３％
　平均利潤率Ｐ´＝ｍ／ｋ＝５００／５５００＝９．１％

　この平均利潤率が「資本家の共産主義」で、どんな資本にも適用されます。
　有機的構成の低い資本Ａでは、例えば
　商品価格Ｗ＝ｋ（２００＋３００）＋ｋ×２０％＝６００
　これが、労賃の５０％騰貴により
　商品価格Ｗ´＝ｋ（２００＋４５０）＋ｋ×９．１％＝７０９．２
　となり、マルクスの言う通り生産価格が「可変資本の比重が大きい産業部門では上がる」

　次に有機的構成の高い資本Ｂでは、例えば
　商品価格Ｗ＝ｋ（４５０＋５０）＋ｋ×２０％＝６００
　これが、労賃の５０％騰貴により
　商品価格Ｗ´＝ｋ（４５０＋７５）＋ｋ×９．１％＝５７２．８
　となり、マルクスの言う通り生産価格が「不変資本または固定資本の比重が大きい産業部門では下がる」
　ということでしょう。次も棒線で区切られていますから、思い付きですね。

　次の区切り（ｐ５４１〜５４４）は、前の区切りが第３部の「先食い」なのに対して今度は「回顧録」で、貨幣の通流（第一部第３章第二節、�@、ｐ１９４〜）と貨幣の循環（第二部第１章、�D、ｐ４５〜）は違うものだと言っています。「貨幣の循環ーーすなわち、出発点への貨幣の還流ーーは、それが資本の回転の一契機をなす限りでは、貨幣の通流とはまったくことなる。それどころか正反対でさえある現象であって、貨幣の通流は、貨幣が一連の人々の手を経て出発点から遠ざかって行くことを表わしている。もっとも、回転が速くなるということは、”それ自身”（貨幣の*ykb）通流が早くなるということを含んでいる。」が、「これに反して、逆に、貨幣通流が早くなっても、必然的に資本の回転が、それゆえまた貨幣の回転が速くなるわけではない。すなわち必然的に、再生産過程の短縮とより速い更新とを含めむわけではない。」というだけです。

　例によって、ｙｋｂｄａｔａにとって興味があるのは（注３３）です。なるほど、ケネーにあっては貨幣の出発点は農業経営者であり、「資本論」では資本家なわけですね。また新しい感覚を与えれましたね。
　最後の部分は生産（実体経済）と関係ない今の資本主義の相場や金融取引を予測したような表現になっているのがおもしろいですね。
　第二節の前の最後の部分だけ触れると、ここで言っているのは、充分な金があって初めて生産が発展するのではなく、拡大再生産による「追加諸商品」の貨幣化のために、信用制度を度外視すれば、貨幣摩損分の補填ではなく「追加の金」生産が並行的に行われる、ということではないでしょうか。これは第二節の結論の１つです。

　第二節は主に拡大再生産での追加諸商品の貨幣化を論じています。
　「まずはじめに」拡大再生産を始めるときの追加貨幣資本はどこから来るか、それは収入として資本家に消費されていた剰余価値を（節約して*ykb）追加貨幣資本として流通に投げ入れられる、貨幣はすでに資本家たちの手にあり、ただその活用法が異なるだけだと片付けます。問題はここではありません。（ｐ５４５〜５４６）

　「ところがいまや」拡大再生産によって生産された追加諸商品に含まれる追加剰余価値（追加諸商品に含まれるその他の価値は、追加貨幣資本が再現して資本家に還流するだけ*ykb）を実現する、追加貨幣はとこから来るのか？というわけです。（ｐ５４６）

　マルクスは、問題ないと、３つの弾力性と最後に追加金生産をあげます。一つひとつ見てみましょう。まず第1に、流通する貨幣総量の節約です。節約の方法は「支払いの相殺」、これはすでに信用論に踏み込んでいますがもう一つ「貨幣片の通流を早くする」としていますが具体的なイメージはつかめません。第２は、いろいろな「蓄蔵形態から流通形態への貨幣の転化」で調達される。第３に「これらすべての手段でも足りなければ、金の追加生産あるいは輸入が行われなければならない。」としています。（ｐ５４７〜５４８）

　次は貨幣としての金（銀）生産は社会的な”空費”だという第二部第１篇第６章の「流通費」（�D、ｐ２１２〜２１３）　の話しを持ちだし、だから節約され、信用も発達すると言います。（�E、ｐ５４８）　次はまた棒線が出てきます。

　この部分は剰余価値が積み立てられ、のちに生産資本に転化する場合を考察しています。「事態はおのずから明らか」で、輸入された金か、流通から引きあげられたものだとしています。（ｐ５４９）　個々の資本家の積み立てと、他の資本家の積立金の流通への投げ入れるので、それで貨幣が足りなくなることはないと、これまで何回も述べてきたことを繰り返します。（ｐ５５０）

　次は、ご丁寧にも蓄積が部分的にではなく一般的に行われる場合はどうなるかということを言っています。前提として、前にも述べたように、労働者階級が買い戻すのは社会的生産物の価値のうち、前貸可変資本部分だけであるとして、貨幣資本の真の出発点は資本家階級だけだということを再度述べます。
　そして、「事態を現実に起こるがままに考察するならば、のちに使用するために積み立てられる潜在的な貨幣資本は」と次の三つをあげます。�@銀行預金。�A国庫証券。�B株式。
　これらはいずれも権原であり、貨幣そのものではない。実際の貨幣の多くは生産資本として貸し出されています。（ｐ５５２）

　次の部分もいつか出てきたことのくり返しただと思います。「資本主義的生産の基礎上では、蓄蔵貨幣の形成そのものは決して目的ではなく・・・生産資本として機能するはずの貨幣資本の形成にすぎない。」つまり、いろんな資本家の積み立ては、貸し出しによって他の資本家たちの生産資本として機能するのが資本主義では当たり前のことだと。（ｐ５５３）

　最後の「流通上の冒険」とはなにか。これは一方の積み立てが他方の追加貨幣資本となるような関係ではなく、一方的な資本の集中となります。たとえばＢに還流すべき剰余価値の一部をＡが奪い取るような。

　約９カ月ぶりの更新になりました。マルクスの勝手なおしゃべりに、これほど付き合う人間はいるでしょうか。これで第二部第二編が終了しました、次はすこしおもしろい話しをしましょう。

２０１２年９月２５日 ｙｋｂｄａｔａ