１８章 緒論　�Fp558〜p570

　第１節 研究の対象　�Fp558〜p562
　ここでは、第三篇とはなにかを述べています。

�Fp558〜p560　「資本の直接的生産過程では…」〜「したがって…」
　この部分は回転論のおさらいですが、新しい論点もあります。第三編では生産的消費、個人的消費を含み、労働者は労働力の売り手としても生活手段の買い手としても現れ、資本家は労働力の買い手としても生活手段の売り手としても現れ、資本家はさらに生活手段の買い手としても現れる、ということです。
　流通過程には、これまで研究の対象にしてこなかった生産的消費と個人的消費を含むが、個人的消費（資本家の手にある剰余価値と労働者の手にある労賃の支出）は流通の環をなすものではない、つまり、個人的消費は流通部面から出ていくというのです。
「とはいっても、すくなくとも労賃の支出はこの流通の条件なのではあるが。」これは、これまで何度となく示した次のイメージ図から明瞭です。（赤文字の部分）

�Fp560〜p562　「第1部では…」
　ここから、すっきり整理されています。すなわち、第一部では、労働力の売買以外の流通過程を度外視して、生産過程が研究された。第二部第一編では労働時間と流通時間が検討され、資本の循環が研究された。第二部第二編では、可変資本と不変資本の区別とともに、流動資本と固定資本の区別がされ、資本の回転が研究された。以上の研究では、個別資本が研究対象だったが、ここ第二部第三編では、個別資本の絡み合いにおいて形成される、流通過程を含む社会的総資本の運動が研究される。

　なお、第三篇を含め、第二部が難解なのはなぜかについては、＃０２０：「資本論」第二部とは何かですでに説明していますので、見てください。

　私はここまで来て、マルクスが「商品資本の循環」のあちこちで匂わせた、さまざまな「再生産論」への予告を思い出しました。冒頭に掲げたイメージ図でさえ、「再生産論」の大きなヒントになっているのではないでしょうか。

　第２節 貨幣資本の役割 �Fp563〜p570
　この節は何のためにあるのかよく分かりませんが、とりあえず読み解きましょう。

�Fp563〜p564　「個別資本の回転の考察にあたっては…」
　マルクスは第二篇「回転論」をおさらいして、貨幣資本は
１）全過程に最初の衝撃を与える��原動力″として現れる。
２）生産資本に対する比率は変わるが、生産資本の機能し得る部分は、常に貨幣資本の実存する部分によって制限される。
と２点について論じるよと述べ、それぞれについて論をすすめますが、そのほとんどは第一部や第二部のこれまでの論議の整理で、所どころ新しい事を持ち出す程度です。

�Fp564〜p565　「第一の点について…」（原文は下線ではなく傍点）
１）については、「とくに流動資本は、動力としての貨幣資本が比較的短期間につねに繰り返し登場する」と当たり前のことを述べます。しかしその後、生産規模が貨幣資本の規模に制限されるということでないとして、追加的貨幣資本なしでも生産規模を拡大しうる例を５つ上げています。すなわち
　�@労働の外延的延長（労働日＝労働時間の延長）、内包的強化（労働強度の強化）
　�A鉱石などの自然素材より多量な利用
　�B固定資本の使用時間と使用強度の延長
　�C方法の改善などによる自然諸力の作用と効果の増大
　�D労働力の社会的結合や熟練による生産力の増大
　次の「ケアリの計算によれば…」は完全な寄り道で、「愚か者のケアリ」（草稿ではこうなっていた）は、労働者の熟練などには追加的貨幣資本が支払われないのと同じように、「有史以来土地に投ぜられこんにちの生産能力を土地に与えるにいたった資本または労働がすべての土地所有者に支払われるのではない」と主張していると述べて批判し、地代論を展開したくてうずうずしながら我慢しているところを覗かせています。ここは読み飛ばしてもいいでしょう。

�Fp566　「確かに…」
　�@〜�Dの追加資本投下のいらない労働の生産力向上は、生産物の総量を増加させるが、生産物の価値は増加させない。しかし、同じ労働で多くの不変資本価値を再生産する場合は生産物価値も増加する。その場合は資本蓄積（拡大再生産）の（素材的）基盤を形成すると言うようなことを述べています。

�Fp566〜p567　「社会的労働そのものの組織化…」「最後に…」
　社会的総資本が絶対的に増加しなくても、「資本の集中」によって労働の生産力を向上させて生産の拡大が可能だと言っています。
「最後に…」も追加貨幣資本の投下なしに生産を拡大できる方法です。すなわち前篇の「回転論」で明らかにしたように、「回転期間が短縮されれば…同額の貨幣資本でより多くの生産資本を運動させるかすることができる。」

�F567〜p568　「けれでも…」
　次がこの点（追加的貨幣資本なしでも生産規模を拡大しうる）についてのまとめで、前貸し貨幣資本の価値は一定でも、それが生産資本に転化したあとで機能する程度は一定の範囲内で可変的（弾力的）だと言っています。この辺は、第一部第七編「資本の蓄積過程」や第二部第二篇の「回転論」のおさらいですが、後に論じる拡大再生産の契機にはなると言いたいのでしょう。

�Fp568　「第二の点について…」
２）貨幣資本は生産資本に対する比率は変わるが、生産資本の機能し得る部分は、常に貨幣資本の実存する部分によって制限される」ことについてです。最初に、例によってマルクスの貨幣の運動についていのこだわり、貨幣資本の実存のための前提条件としての貨幣生産について論じています。

�Fp568　「生産資本を運動させるのに…」
　回転期間の長さや、労働時間（生産期間）と流通時間（流通期間）とへの分割は、前貸し貨幣資本の大きさも、そのうちの機能していない資本の割合も増加すると、第二篇をくり返しているだけです。

�Fp568〜p569　「回転期間が…」
「より長期間にわたる比較的大きな貨幣資本の前貸を必要とする」大型長期事業について述べた所です。これは、大型長期事業が市場になにも返さない比較的長期に貨幣資本や生産資本が投じられ、市場を攪乱（かくらん）すると、第二篇16章で論じられていることです。

�Fp569〜p570　「こうした作業は…」「要するに…」
　マルクスはここでは「社会的生産のもとでは貨幣資本はなくなる。社会が（計画的に*ykb）労働力と生産手段をさまざまな事業部門に配分する」と突然、未来社会論を持ち出します。そのあともだいたい第二篇16章の繰り返しです。

　さて、読み解くのに時間がかかった割には面白くありませんでした。18章を一通りなぞった後で、不破氏が（「『資本論』全三部を読む」�D、ｐ４７）指摘している、長期巨大事業における貨幣資本の制限を、信用制度と株式会社制度で突破することで市場が攪乱されるという事態が実際に起きた47年恐慌について、調べたことを少し論じましょう。

　1840年代のイングランドは「鉄道狂時代」と言われる投機バブルがピークに達していました。ところが、1845年、46年の不作もあり、農産物輸入を制限した「穀物法」が撤廃されます。これ自体は、ブルジョアジーが貴族地主階級に勝利するという上部構造の変化ですが、この穀物法の撤廃により農産物が大量に輸入され、それと引き換えに貨幣（金）が大陸に大量に流出します。このことにより、貨幣市場がひっ迫し、47年恐慌の引き金になったというのです。エンゲルスの「イギリス商業史」（第三部第5篇28章「信用と架空資本」）を参照してください。

　1844年には銀行法が改定されて市場統制に対するイングランド銀行の責任が放棄されたという意見もあったように、信用と投機が結びついて恐慌に発展するという現実の状況から、マルクスは「この制限（前貸しうる貨幣資本の限界*ykb）は、信用制度およびそれと結びついている結合体、たとえば株式会社によって突破される。だから、貨幣市場における撹乱はこのような事業を停止させ、他方では、まさにこの事業そのものがこんどは貨幣市場における撹乱を引き起こす。」（p569）と書いたわけです。現在の日銀も、「通貨の番人」から「バブルのあおり手」に変身し、「市場統制の責任を放棄」したと言わざるを得ません。

　次の19章はもっと難題です。アップできるのはいつになることやら。

２０１３年５月２９日 ｙｋｂｄａｔａ（2024年3月5日改定）