◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆
｜「新版『資本論』の研究」のトップ ｜第二部の目次 ｜前のページ ｜次のページ ｜メール｜＃０２８： 第一篇 資本の諸変態とそれらの循環 第六章 通流費 ⑤p208～
ここでは、現代の製造業の企業が「営業経費」として、利益から控除するものに含まれる、いわゆる「流通費」、生産物も価値も創造しない追加資本投下（可変資本＝労賃も含む）について論じていますが、一方で「流通過程に突き出た生産過程」つまり輸送や、「価値形成的」な保管など、流通過程でも価値の移転と創造をする労働があることを論じています。
第１節 純粋な流通費 は、生産物も価値も創造しない追加資本投下についてです。マルクスは３つの「純粋な流通費」をあげています。すなわち、「購買時間と販売時間」、「簿記」、「貨幣」です。
１ 購買時間と販売時間 まず、購買と販売にかかわる流通費を見てみましょう。マルクスのしつこさや、エンゲルスの編集もあり、同じことを違う角度で何度も繰り返していますが、だいたい４つのことを言っています。
⑤p208～p211
第１に、販売（Ｗ－Ｇ）および購買（Ｇ－Ｗ）の形態変化を促す資本家の働きは、商品の価値を変えない。
石炭の燃焼の例があげられていますが、これは石炭を燃やそうとする仕事は、決して石炭の燃焼エネルギーを増やさない、物理学的に言うと、むしろその仕事のエネルギーは、その結果の燃焼エネルギーから差し引かれる、ということです。これは、商品の販売と購買にかかわる労働（営業経費）は、決して商品の価値を変えないし、その商品を売り上げた際の利益（営業利益）から控除されるということです。
この辺のたとえ話は、まるで自然科学に精通するエンゲルスの補筆のような印象も受けますが、そんな解説はどこにもないようです。
⑤p211～p212
第２に、資本主義的生産様式は大量生産であり、これを売りさばく専属業務を１人の商人（１つの商人資本）に任せた場合は、どうか。それは彼（商人）によって「多数の生産者たちのための販売時間および購買時間を短縮するであろう。」すなわち、「流通時間の短縮」です。
商人の役割についてはすでにケネーがその本質を見抜いていることが原注（一一）で紹介されています。マルクスは、ケネーをこんなところでも注目していたわけです。「一機械とみなされうる」については、後で触れます。
⑤p211～p214
３つ目は、販売と購買すなわち流通を労働者が担ったらどうなるか、事態は変わらず、彼の労働も、生産物も価値も創造しない“空費”です。ただし、彼の労働は有用であり、彼の労働は生産資本の機能しない時間を減少させることになります。（p213）
次の部分で少し難しいのが、商業労働者も工場労働者と同じように不払い労働がある、搾取されているというのです。 これらは、第三部第四篇で本格的に論じられます。
⑤p214～p215
最後の４つ目の部分は、結論的な再確認です。「どのような事情のもとでも、このこと（販売と購買にかかわる労働）に費やされる時間は、転換される価値にはなにも付け加えない流通費である。それは、価値を商品形態から貨幣形態（および貨幣形態から商品形態＝生産諸手段および労働力*ykb）に移すために必要な経費である。」
さて、節の最後にまた、流通への追加資本投下は、「それは、ちょうど、生産物の一部分が、生産物の残りの部分を購買し販売する一機械に転化されたのと同じことである」と繰り返しています。これは何のことか。下の図を見ながら考えましょう。
生産過程での可変資本投下ｖ（労賃）は剰余価値ｍを創造します。ところが流通過程での可変資本投下ｖ´（流通費）は追加剰余価値 ｍ´を生まない、だから追加可変資本は可変資本でありながら、それだけでは剰余価値を生まない不変資本、すなわち機械のようだというわけです。さらに、機械は流動資本（不変資本のうち補助材料や原料・半製品など、第２篇で論じられる）の流動を速めるのに対し、この機械は流通を速めるわけです。マルクスの頭の中は面白いですね、ほんとに。
２ 簿記 ⑤p215～p218
簿記のための労働と労働手段（当時は紙やペンなど、今やパソコン・プリンターなど）への支出は、購買時間・販売時間と全く同様で、生産物も価値を生みません。資本家が生産時間外に個人的に記帳しても、個別資本の特殊な代理人の機能として自立しても、そして銀行の専属機能として自立しても事態は変わりません。
次に、簿記は未来社会ではいっそう必要となり、生産の集中と社会化で簿記の費用は減少すると言っていますがどうでしょうか。私は、社会的に所有される「主要な生産手段」についてはそうなると思いますが、未来社会では具体的有用労働（個性的な手工業）が重要視されるようになると思うので、そのレベルでは生産時間外の個人的な簿記も結構生き残ると思います。
３ 貨幣 ⑤p219～p220
ここでは、流通手段、支払い手段、準備金として機能する貨幣（金銀）は、生産的に機能しないので社会的にみれば「空費」であるという単純なことを述べています。信用制度が発達すれば、金銀貨幣は地金として保管され信用の土台となり、ほとんど摩滅しなくなりますが、生活諸手段の売買に使われる鋳造貨幣の発行と摩滅への補填、紙幣の発行と汚損への補填（いずれも造幣局の仕事）は空費です。現代では、リサイクルも含め、金銀生産の多くの部分は電子部品や装飾品等の生産資本として機能しています。
第２節 保管費 ⑤p221～p240
この節の叙述には、かなりののあいまいさがあります。この辺の事情は「『資本論』全三部を読む」（不破哲三、２００３年）の第四冊（ｐ１７２～１７６）に書かれていますので参考にしてください。
⑤p221
まずはじめに、「この流通費は、生産過程――この生産過程は流通において持続されるにすぎず、したがってその生産的性格は流通形態によっておおい隠されているにすぎず――から生じうる。」と、保管費について輸送費と同じような性格があるとしてしますが、それにも関わらず次に「他方ではこの費用は、社会的に考察すれば、単なる費用、不生産的支出――生きた労働（可変資本*ykb）のそれであれ、対象化された労働（不変資本*ykb）であれ――でありうるが、にも関わらず、まさに右のことによって、個別資本家にとっては価値形成的に〔価値形成の要因として〕作用し、彼の商品の販売価格への追加分をなしうる。」と社会的にみれば空費であるが、個別資本にとってみれば価値形成的に作用すると、あいまいな言い方をします。
その後も、「したがって商品に使用価値をつけ加えることなしに商品を高くする費用、したがって社会にとっては生産の〝空費"に属する費用が、個別資本家にとって致富の源泉をなしうる。」と同じように繰り返しますが、これは、p224にあるマルクスの注（一四）、すなわちコーベドなどの保管費の算定の例を強く意識してかかれています。
１.在庫形成一般 ⑤p222～p224
ここでは、商品在庫は循環の中断であると同時に、循環の条件である、在庫のための倉庫（不変資本）、搬入のための労働（可変資本）が投下されるとして、コーベドの算定例が示されています。マルクスが何を考えているのかを解くカギは、このコーベドの保管費算定の例です。注（一四）ではコーベドが1841年当時の小麦貯蔵費を
①量の損失（袋からのこぼれでしょうか*ykb）1/2％
②利子３％
③倉敷料（倉庫に物品などを預けた時の保管料＊ウィキペディア）２％
④選別および運搬費１％
⑤引き渡し作業1/2％
合計７％に算定していることが紹介されています。
⑤p221にもどります
このコーベドの算定例は「保管費」の具体的な例で、要するに個別資本において実際にいくらかかるかにかかわらず、社会的平均の保管費で価格の上乗せ（率）が決まっているということです。ここでやっとマルクスはこれを「この費用は、個別資本家の負担するこの費用の程度に応じて〔平等に〕分配される。」）とか、「この費用が商品の価格につけ加える追加分が、この流通費を平等に配分するにすぎない・・・」とか表現していることが理解できます。
ですから社会的な平均より保管費を節約すれば、その分が利益すなわち「致富の源泉」（p221）となるわけです。この考え方は、商品価値（価格）がそれを生産するのに必要な社会的労働（社会的に平均の生産力および労働強度での労働）の量によって決まるという労働価値学説と共通する考え方ではないでしょうか。
⑤p224～p225
その後もマルクスは、この保管費はある一定の範囲で商品の価格に入り込むと言う点で第１節の流通費とは区別されるがやはり空費だとか、保管費は形態変化の必要から生じるにすぎないが、それにもかかわらずこの空費は形態変化でなく価値の維持に費やされるとか曖昧な論を繰り返します。
⑤p230～p231
ついには、商品在庫の歴史的な分析に入り込み、資本主義的生産様式のもとでの商品在庫の増減法則まで論を進めます。すなわち、
①供給される生産諸手段の生産力が発展すれば減少する（いつでも手に入る）
②輸送業の生産力が発展すれば減少する（すぐ手に入る）
③信用制度が発展すれば減少する（循環の中断が少なくなる）
④原材料の生産周期が長ければ増加する（農業生産物）
この辺はどうでもいいような気がしますが、何でも徹底的に研究を進めないと気が済まないマルクスらしいしつこさです。
２.本来の商品在庫 ⑤p232～
p232～p234は「在庫形成一般」の、まったくの繰り返しにすぎません。p234の「そこで次に、これらの費用はどの程度まで商品の価値に入り込むか」と、直前に「この資本支出は生産物価値そのものには入り込まず・・・」と全く矛盾しています。
⑤p234～p238
次の、買い手は在庫時間が長い、すなわち貯蔵費、保管費が高いから高く買うということはありえない、どちらかというと「時間の歯にかじられて〔傷んで〕いる」（p235）から値引きされる、というのは分かりやすい話ですが、またその次からp238まで矛盾した繰り返しがはじまります。
⑤p238～p239
意味があると思うのは、正常な在庫にかかる費用は生産者が負担するかコーベトの例のように社会的に比例配分されるかするが、売れないために膨張する在庫は、その貯蔵・保管費用は、正常な在庫と同じようににかかるが、形態転化の困難から生じる費用は商品の価値に入り込まない、とした部分です。ところが、これも正常な在庫か正常でない在庫かは分かりにくいし、信用制度でさらに分かりにくくなると言っています。
あとに書かれた第二草稿でもまだあいまいさが残っていますが、だいぶすっきりしているようです。ykbdataの私見も入れれば、貯蔵・保管に要した倉庫などの固定資本の摩滅分、搬入や倉庫の環境の維持管理に要した労働は、商品の価値に追加されるということです。ただし、売れないための在庫や投機的な思惑による恣意的な在庫の費用は商品の価値に追加されないということだと思います。
第三節 輸送費 ⑤p240～
冒頭部分は、これまでの繰り返しです。輸送については、「貨幣資本の循環」（⑤p92～p93）ですでに論じられている問題ですので、理論的な問題は解決済みです。ですからここでは、イギリスの鉄道史がメインです。1825年に商用鉄道が初めて開業し、1840年代には「鉄道狂時代」と言われる投機バブルがピークに達し、主要な都市を結ぶ鉄道網が形成されたということです。ですから、コーベドの1841年の保管費の算定は7％でしたが、1867年には（小麦の価格が変わらないと仮定すると）約0.35％（2ペンス÷1クォーター50シリング）にまで下がっています。（p224の原注（一四）の後半部分）輸送業の生産力が上がれば、輸送費は安くなり、保管の期間や量も減って流通費全体が安くなりますので、個別資本にとっては特別剰余価値を手に入れるチャンスになります。現在（2009年）の「流通革命」も同じです。そういう意味で、第3節「輸送費」の最後の言葉は発展した資本主義的生産様式を考えるうえで大切です。
これで「資本の循環」を終わり、次からは「資本の回転」に入ります。
ーー第14回「新版『資本論』オンラインゼミ」はここまで２００９年６月９日 ｙｋｂｄａｔａ（2023年7月19日改定）
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