「資本論」の研究＃０３２：資本の総回転、重農主義者たちとアダム・スミス

◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆

＃０３２：　１１章　固定資本と流動資本にかんする諸学説。
　　　　　　　　　　　リカードウ

　結論を言うと、マルクスはリカードウについて、「スミスとは対照的に、価値および剰余価値をいっそう首尾一貫して、しかも鋭く展開しており、事実上、俗論的なＡ・スミスにたいして奥義をつかんだＡ・スミスを固守している」（⑥、ｐ３４６）と評価しますが、かえってそれが「資本主義的搾取の現実の運動を理解するための基礎が一気に埋没されてしまう」（⑥、ｐ３４５）と批判します。

　リカードウの「資本」は「労働を維持すべき資本と、道具、機械および建物に投下される資本」の２つです。つまり、マルクスの規定

に対し、リカードウの規定は
となります。

　ここで、労働を維持すべき資本とは、労働者が賃金で購入し消費する生活手段のことで、これは生産過程ではなく、流通過程から引き出されるので流動資本だというわけです。（⑥、ｐ３４０）　このようなリカードウの固定資本と流動資本からは次の二重の誤った規定が出てきます。
　第１に、資本主義的生産過程の内部的機構を見ないで、外観上の利潤率という現象形態にとどまる。第２に、不変資本であり同時に流動資本である原料・補助材料（労働対象）はどちらにも入れられず、まったく消えうせる。（⑥、ｐ３４２）

　そのあとは、１０章の繰り返しで、重要なのは、リカードウのように利潤率のみのに着眼すれば、「前貸し価値の再現だけが問題となる」、リカードウの、スミス的混同の無批判的受け入れが（資本主義的生産様式の秘密の解明に対する）いっそうの妨害となる、という部分です。（⑥、ｐ３４６）

　これは、冒頭の「結論」で言ったことです。つまり、スミスは不変資本と固定資本、あるいは可変資本と流動資本を行ったり来たりして混乱しているが、リカードウにあっては不変資本＝固定資本、可変資本＝流動資本に徹底しているので、剰余価値の秘密の解明のいっそうの妨害になっているということではないでしょうか。

　リカードウはさらに、「固定資本は・・・より緩慢に補填され、労働力に投下された資本は、より急速に補填されなければならない」と資本投下の間隔の違いで「流動資本の項目かあるいは固定資本の項目かに分類される」（⑥、ｐ３５１）と言い始め、可変資本と流動資本がますます同一視されます。
　リカードウも、結局スミスと同様に、生きた労働（労働力）に代えて死んだ労働すなわち労働者の消費する生活所手段を置き、労働者の消費した生活所手段の価値が生産物の価値に再現するだけ（剰余価値を生まない）になり、（⑥、ｐ３５４）「資本主義的生産様式の完全な神秘化が首尾よくなしとげられ、生産物の中に現存する剰余価値の起源はまったく隠蔽され」（⑥、ｐ３５５）ます。

　マルクスは最後に、Ａ・スミスの混乱の諸結果を、４点にまとめています。
（１）固定資本と流動資本の区別が、生産資本と商品資本との区別と混同される。
（２）すべての流動資本が、労賃に投下された資本または労賃に投下されるべき資本と同一視される。
（３）可変資本と不変資本の区別と、流動資本と固定資本との区別の混同は、ついには資本の区別は流動資本と固定資本しかないことに行きつく。すなわち、労賃に投下された資本だけが流動資本で、それ以外はすべて固定資本だというラムジーのように。
（４）究極的には、普通預金は流動資本、定期預金は固定資本などいうな銀行家の観念まで生み出す。

　エンゲルスは、第二部の「序言」で、「マルクスの言う剰余価値は・・・マルクスによってはじめて発見されたまったく独自な諸法則に従って、利潤および地代という、特殊な転化された諸形態に分裂するのである。これらの法則は第三部で展開されるのであり、そこではじめて剰余価値一般の理解から、利潤および地代への剰余価値の転化の理解に――したがって資本家階級内部での剰余価値の分配の諸法則の理解に――到達するためには、どれだけの中間項 が必要であるかが、明らかにされる。」と述べています。

　この「中間項」の最大のものが、「固定資本」と「流動資本」の科学的概念の確立です。これにより、資本主義的生産内部（生産過程）での「剰余価値」から、日常生活的な（市場での）概念である「利潤率」に到達することができます。マルクスは「固定資本」と「流動資本」で相当苦労したらしく、科学的な概念に到達できた時の喜びは相当なものだったっでしょう。

２００９年１１月１５日ｙｋｂｄａｔａ

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