◆◆◆｢資本論｣の研究◆◆◆
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＃０３１：資本の総回転
重農主義者たちとアダム・スミス
第９章 前貸資本の総回転。回転循環
第９章では、第７章で簡単に論じた回転時間と回転数を、固定資本の回転、流動資本の回転の総合として再度論じますが、数量的にとらえるためにはどうしてもＧ･･･Ｇ´の形態、すなわち資本家の経理上の数字でとらえ必要があるんだとマルクスは言っています。（⑥、ｐ２８６～２８７） 下表は９章（三）項の例を表にしたものです。
資本家の会計は年単位です。この例では、年初に投下した前貸資本総額を１０万とすれば、その年末直前には、固定資本の復帰８千と、流動資本の５回目の復帰２万、合わせて２万８千がかれのもとに復帰していることになります。大事なのは、固定資本の復帰は８千ですが、生産過程にはまだ７万２千の資本価値が残っている固定資本があるので、前貸資本価値からの変化はないということです。（剰余価値を度外視して） 資本の総回転だけが考察されています。（⑥、ｐ２８８～２８９）
２８９ページ末行からは、すべての資本が１回転を終わるためにはやはり寿命の長い固定資本の１回転を要する、これを「回転循環」とする。固定資本の物理的寿命は延びる傾向にあっても社会的摩滅が寿命を縮めるので、近代資本主義では資本価値額の大きい工場や機械設備でおよそ１０年で、これが恐慌の１０年周期に関係あるのではないか、というのがマルクスの問題意識なのです。
これはあくまでもマルクスの問題意識であって、建物・機械設備の更新が恐慌の契機であるとは言い切っていません。それでも、「恐慌はいつでも新投資の出発点をなす」（ｐ２９０）と、やはり臭いなと言うわけです。しかし、「恐慌はいつでも新投資の出発点をなす」というのはおかしい話です。「恐慌はいつでも社会的摩滅の契機をなす」なら分かりますが、マルクスの考えもまだまだ未成熟です。
（五）項は回転時間の違う３種類の資本の総回転の計算例です。読んでもらえば結構です。
（六）項は素材的な違いによる回転時間の相違についてですが、何種類あろうとも、基本は（三）項ですから、これも読んでもらえば結構です。ただ一点だけ、見かけ上の資本投下の周期と、回転周期が違うものがあるよ、労賃は月給より週給、週給よりは日給の方が回転が速いように見えるが、それは資本投下の間隔であって、流動資本としての労賃の回転間隔、貨幣への復帰間隔ではないよという点です。労賃への投下資本は、原料や補助材料などの他の流動資本と同じように、商品という姿で流通し、貨幣に復帰します。ですから週給でも週１回の回転ではなく、およそ年２回ないし４回であろうと言うわけです。（⑥、ｐ２９４～２９５）
９章の最後は、「架空の需要」をつくりだしたサブプライム・ローンのことを想起させる、後の論議の伏線になっている面白い部分です。すなわち「信用制度が社会的規模で回転を変化させるのは、信用制度が生産ばかりでなく消費までも促進させる限りのことである。」（⑥、ｐ２９６）
第１０章 固定資本と流動資本にかんする諸学説。
重農主義者たちとアダム・スミス
マルクスはまず、ケネーを評価します。ケネーは農業だけを生産的労働だとしてしまいましたが、その農業（借地農業経営）だけに限っては、正しく固定資本（「原前貸し」）と流動資本（「年前貸し」）との区別をしていました。農業の流動資本の回転時間は１年ですから「年前貸し」となるわけです。
アダム・スミスはこれを借地農業経営に限らない、一般的カテゴリーとしたことが唯一の進歩で、その解明においてはケネーよりもはるかに後退していると、マルクスは言います。（⑥、ｐ２９９） ケネーが唯一農業を生産資本としたのに対し、スミスは利子生み資本も商人資本も同格に扱い、生産資本の回転と再生産を分析する立場から遠ざかっているというのです。（⑥、ｐ３００）
次からはアダム・スミスの混乱のオンパレードです。まず１つ目は、流動資本を流通資本（商品資本および貨幣資本）と混同し、生産過程にある資本を（生産資本）を固定資本とする混乱です。（⑥、ｐ３０２） 例として機械があげられています。機器製造業者にとって、製造した機械は「手放され、主人を替え、それ以上に流通する」流動資本となるが、生産過程に入ると固定資本になってしまうというわけです。（⑥、ｐ３０５） 実はこの例、第８章の「たとえば機械は、機械製造業者の生産物または商品としては、彼の商品資本に属する。機械は、その買い手、すなわち、機械を生産的に使用する資本家の手にはいってはじめて固定資本になる。」（⑥、ｐ２５０） との対照として述べられています。本当はこうなのに、アダム・スミスにおいてはこんなに混乱しているというわけです。
２つ目は、機械や用具の価値は流通しないと、はっきりではなくぼんやりと、述べていることです。「第二に、それは・・・もうそれ以上流通することなしに収入または利潤をもたらす」（⑥、ｐ３０４） なぜ、ぼんやりかというと、マルクスも述べているように、アダム・スミス自身、固定資本の償却費を生産物価格の一部分として説明しいるのです。（⑥、ｐ３１４）
３つ目は、スミスの「流動資本」では、可変資本と不変資本の本質的区別が隠ぺいされ、資本主義的生産様式の搾取の秘密が隠ぺいされます。（⑥、ｐ３１４）
「Ａ・スミスはまず」の３１５ページからは、これまで述べてきたことの繰り返しです。まずは、第８章で展開した、資本の外観的な形態と一見矛盾する固定資本、流動資本の価値論上の区別をアダム・スミスが、その外観と混同していることをが、８章と同じ役畜や種子の例もあげて述べられています。（⑥、ｐ３１５～３２０）
「第二に」の３２１ページからも繰り返しです。スミスあげた流動資本の形態的な四部分（貨幣、食料品の完成品在庫、原材料・半製品、その他の製品在庫）が示されてしますが、これもまったく混乱しています。
「最後に目につくのは」の３２６ページで注目すべきは、スミスが労働力を「流動資本」に入れずに、その代わりに労働者がその賃金で購入する生活諸手段を流動資本として捉えていて、労働力を生産過程に結合した可変資本として捉えられず、それどころか労働力を“習得された有用な諸能力”として固定資本にいれているというのです。これでは搾取の秘密には迫れません。（⑥、ｐ３２６）
続いてマルクスは、「労働力も商品として市場で見出せるこということから、Ａ・スミスの新たな混乱が起こる。」として、「あらゆる固定資本は、もとはと言えば流動資本から引き出されたもの」（⑥、ｐ３２８）というスミスに対し、「機械は、綿花と同じように、市場で買われる。しかし、このことから機械が流動資本から出ているということには決してならない。」、つまり流動資本か固定資本化でなく、商品資本という別のカテゴリーだと指摘します。ここで、スミスの言う「固定資本」を「不変資本」に、「流動資本」を「可変資本」にすれば、ここから「スミスのドグマ」が出て来ます。
そのあとは、例によってしつこい繰り返しで、８章で取り上げた機関車や汽船の例も再登場します。
最後に、重農主義者からスミスが受け継いだ上記の弱点が、後にベンサムやマルサスよって「労働元本」説に歪んで体系化されたと言います。すなわち、労働力の代わりに労働者の生活所手段を流動資本ととらえれば、生活所手段はなんら剰余価値を生まないので、労働者は消費するだけで、労働者に配分される生活所手段は、資本家の「収入」を犠牲にしない限りは、一定の大きさに制限されている、というわけです。（⑥ｐ３３４～３３８、④ｐ１０４６～１０５２）
２００９年１１月１２日 ｙｋｂｄａｔａ
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