第５節はマルクスが貨幣の動きにこだわっているだけで、ほとんど第３節と第４節のくり返しと考えていいと思います。事実、ｐ６６２までは第３節と第４節のおさらいで、最後の部分で資本の回転率まで出して、貨幣流通の主役は労働者への労賃だと述べ、その後の貨幣の動きの追跡の主な視点はここだと予告しています。

　さて、また縦の仕切り線（草稿では横の仕切り線だとおもいますが）が出てきました。また何か新しいことを言うのかと思ったら、また今までのことをP６６６の１行目まで、３回も繰り返しです。ただ次のことは３節の言い方と少し違います。

　では何が違うか。生産諸手段生産部門の�U(v+m)２０００と生活諸手段生産部門の生産手段�Uc２０００の交換を媒介する貨幣の動きについて、３節同じように下記の交換を媒介する貨幣の動きを３段階で示します。

　ところがここ５節では、３段目が２段目のくり返しで、３節では貨幣流通の起点が�Tの資本家の労賃１０００の支払い、次に�Uの資本家による�Tの資本家のもとにある生産諸手段への支出５００、最後は逆方向に�Tの資本家による�Uの資本家のもとにある消費諸手段への支出５００となっています。５節では最後が２段目と同じ�Uの資本家による�Tに資本家のもとにある生産諸手段への支出５００となっています。そのことをエンゲルスも気づいて原注(47)で触れています。マルクス自身もｐ６６８末尾からそのことを論じていいます。

　３節の３段目の図式を１８０度回転ている格好なのがこの第５節の３段目です。つまりどちらがいつ支出するというは相対的な問題で、要するに５００の生産諸手段と５００の生活諸手段が２回交換されるということです。資本家の支出を５００づつ２回ではなく、１０００を１回、２５０を４回繰り返しても同じです。つまり、貨幣の動きは大部門間の交換では重要でない、考えなくても良いということを、マルクスみずから論じているのと同じです。このことはマルクス自身がｐ６６８の後半で述べています。ただし、�Tv１０００の可変資本もに年４回労賃を支払うのなら２５０で済むと。

　そんな中でも「剰余価値の貨幣化」は少し意味がありそうです。�Uの資本家が�Tの５００m分の生産諸手段を買うことで�Tの生産物の剰余価値分が貨幣化される。（上図�A）これが２回で�Tm１０００分のの剰余価値が貨幣化される。しかし、その貨幣は消費諸手段に消えていくと。（〜ｐ６６８）

　次（ｐ６６８の最後の１行）からはこれを逆方向から、�Uのほうから見ます。但し、その第２の購買を止めてみて、単純再生産の均衡条件を改めて確認します。（ｐ６７１）結論は資本家の追加貨幣（資本ではない）の支出が剰余価値を貨幣化するという、鶏が先か卵が先かみたいな、読者を惑わす「弁証法的」言い回しです。（「目下の場合に、資本家自身が貨幣を流通に投じており−しかも消費諸手段への貨幣の支出に当たって−、この貨幣で彼の剰余価値が貨幣化され、��言い換えれば�℃ﾀ現されるということは、文字どおり正しい。」、ｐ６７１）これは交換だけを考察すれば余計なこととなります。貨幣はマルクスがどこかで言っていたように、どこからか出てくるものなのですが、マルクスは貨幣がどこから来るのかにこだわります。

　第９節から逆戻りして考えると、個別資本では�Tが�Uから何回かに分けて消費諸手段を買うだろうが、社会的総資本を考えると、単純再生産では、�Tと�Uの売買の中で�Tの剰余価値は一様に貨幣化するが、同時に一様に消費諸手段に支出される。マルクスは微分・積分など（たぶん、何かの分析のなかで「それはどうでもよい」という表現が出てくるので、偏微分も）高等数学に長けていたし、「普遍」−「特殊」−「個別」の弁証法的観点があるのでこうした表現になります。「個別」(資本)に取り囲まれている現象だけからは「普遍」(社会的総資本)の運動は見えてきません。

　ところで、マルクスは�Uの剰余価値の貨幣化には論及していません。これは大部門�Uのなかで資本家同士が相互に貨幣化しているのです。つまり、ある資本家の支出が別の資本家の剰余価値を貨幣化し、この資本家が得た貨幣による消費がまた別の資本家の剰余価値を貨幣化する。資本家の販売が資本家の剰余価値を貨幣化してその貨幣で資本家が消費（購買）する。ここでも交換だけを考えれば、こんなややこしいことは不要で、「自己補填」の一言で済むのですが。

　結論としてマルクスは、単純再生産においては、剰余価値の貨幣化は資本家の追加貨幣の支出によってであり、労働者が生活諸手段を買う（資本家から買い戻す）ことで実現することはないと言います。（ｐ６７３中ごろ）これが商業資本の登場と、剰余価値の産業利潤、利子、地代への分裂であいまいになると、最後に第３部の予告をします。（ｐ６７３の最後の１行とｐ６７４）

　これで第５節は終わりますが、印象としては過少消費恐慌論への反論を意識しているなという感じです。第５節は意外と早くアップできました。６節以降もこの調子で続けたいと思います。期待していください。

２０２０年５月２日ｙｋｂｄａｔａ

　第６節〜９節を理解するためもう一度（実際には３度くらい）読み直しで改定しました。

２０２０年５月６日ｙｋｂｄａｔａ